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◇ ◇ ◇
「──からさ、中尾が結婚するかどうかは自由だよ。『した方がいい』なんて言うつもりもない。自分があんなに嫌だったこと、立場が変わったからってする気ないよ」
お風呂から上がって、髪を拭きながら部屋に戻る途中。
ドアが半開きになった貴也の部屋から聞こえる声。
電話ね、中尾さんかぁ。大学時代からずっと独身主義仲間だったっていうから。
友達の少ない貴也の、たぶん一番気の置けない相手なんじゃないかな。親友ってやつ?
「でも僕は本当に結婚してよかったんだ~。だってもう、あの『結婚しないの? って訊いちゃいけないんだろーなー』って気持ち悪い空気味わわなくて済むんだよ! すっごい楽! ずばり訊かれるのも気分は良くないけど、まだきっぱり『その気ない』って返せるだけマシだったかもね」
……あー、どうせそうだよね。貴也が「よかった」って喜んでるのは、『結婚』ってカタチなんだから。別にあたしじゃなくても──。
「まあでも、中尾には関係ないだろうけど相手は大事だよ。僕ははるかで大正解! 一緒に居て落ち着く人って人生の財産だよね~。『夫婦は同志で運命共同体』って、こうなって身に沁みてるよ」
貴也、──貴也。
貴也は今でも、『女』としてのあたしには用無しだと思う。
セックスは論外としても、キスもハグさえしたことない。この先もすることないよ、きっと。
全然寂しくないって言ったら嘘になる。
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