自称伊達政宗のおじさん

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自称伊達政宗のおじさん

「お主の名は?」武の前に立つ中年男性が言った。  左手に鷹を持ち、鷹匠のような恰好をしている。一見して不審者にしか見えない。 「僕は山田武。こっちは猫のムハンマド。おじさんは?」 「ワシか? ワシの名は伊達政宗。結構有名だから知っとるだろ?」 「伊達政宗って、独眼竜の?」 「そうそう、独眼竜政宗じゃ」  中年男性はドヤ顔で言うのだが、武はその真偽を諮りかねている。  そもそも、武がいるのは1959年。戦国武将である伊達政宗はとっくに死んでいる。タイムリープという可能性もあるかもしれないが、非科学的な現象だ。武は原理が分からないものを信じない。  この時点では、伊達政宗を自称する怪しいオッサンでしかない。  仮に、タイムリープだったとしても、この中年男が伊達政宗かどうかは分からない。  武の知っている伊達政宗は、眼帯をして勇ましく馬に乗っている戦国武将。  一方、武の前にいるのは若くも勇ましくもない、しょぼくれた中年のおじさん。しかも、トレードマークの眼帯をしていない。 ――こいつも中二病か?  男の子だったら、独眼竜政宗に憧れて『眼帯ってカッコイイ!』と思ったことがあるだろう。  眼帯をしているキャラクターにはカッコイイのが多い。  キャプテン〇ーロック(宇宙海賊)、はたけ〇カシ(NAR〇TO)、更木〇八(BLE〇CH)、女性キャラだとアスカ・〇ングレー(新世紀エヴァン〇リオン)もそうだ。  このおじさん(自称伊達政宗)も中二病を患っている、と武は推測している。  コスプレイヤーに「名前は?」と聞いたら、その登場人物の名前を言うだろう。コスプレイヤーは本名を名乗らない。  このおじさんが伊達政宗じゃなかったとしても、本名を言わない気がする・・・  確信のない武は「どう思う?」と猫に聞くのだが、猫は「直接本人に聞けばいいじゃん!」と尤もなことを言う。  しかたないから、武は自称伊達政宗に尋ねることにする。  それにしても、さっきまで大手町にいたはずなのに・・・  ここはどこなんだろう? ***  自称伊達政宗に会う前、武と猫はアリスを探しに大手町に来ていた。  アリスは2週間に1回の割合で家出をする。家出をする理由は、探してほしいから。アリスは家出する時には必ず書置きを残す。書置きには行先のヒントを毎回3つ書いてある。アリスは3つのうちのどこかにいて、武が迎えに来るのを待っている。  武が迎えに来ると、『私は愛されている!』と実感するようだ。11歳の少女は、実に面倒くさい恋愛観を持っている。  今回の家出のヒントは『銀座の美容室、銀座のデパート、将門塚』  銀座の美容室のアリスがヘアカットに行くところだし、銀座のデパートはアリスが買い物に行くところだ。この2つはアリスの行動範囲として違和感はない。  ただ、今回は珍しく『将門塚』という意味深な場所が記載されていた。ちなみに、将門塚(まさかどづか)は、東京都千代田区大手町にある平将門の首を祀る塚である。  アリスのひっかけかもしれない。が、武と猫は、先に大手町の将門塚でアリスを探すことにした。  将門塚の近くで、猫は階段の下から、上を歩く女性を見ている。  猫は嬉しそうに武に尋ねる。 「この角度だとパンツ丸見えだなー。何色か教えてほしい?」  恒例のパンツの色あてゲームがスタートした。 「チャンスは1回?」 「当然だろ!」 「じゃあ、黒で」 「不正解です!」 「あっそ」  猫は次の獲物を見つけた。 「きたぞー。次は何色でしょうか?」 「ピンク?」 「ブッブー、残念!」  本来の目的を忘れて遊ぶ武と猫。そのうちパンツの色あてゲームに飽きてきた一人と一匹は、将門塚の前に座り込んだ。 「アリスの匂いする?」と武が聞くと、猫は「あの辺りからするなー。でも、そこにはいないんだよなー」と答えた。  猫が指したのは将門塚の横にある脇道だ。武が脇道に入るとアリスのハンカチが落ちていた。辺りを見渡すがアリスの姿はない。 ―― 事件に巻き込まれたのか?  武は嗅覚に優れた猫に質問する。 「どこに行ったか分からない?」 「いやー、なんて言うかなー・・・」  猫は言葉に詰まっている。何かを伝えようとしているが、それを上手く表現できないようだ。 「ここから出てどこかに行った感じじゃない・・・」 「どういうこと?」 「その小さい石碑の前でぱったりと・・・」 「これのこと?」  武が石碑に触れたら、石碑が白く光った。武と猫は白い光が眩しくて目を閉じる。  白い光は次第に大きくなっていき、武たちを包み込んだ。
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