鷹匠風中年男とピーちゃん

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鷹匠風中年男とピーちゃん

「助かったー」  一命を取り留めた猫は小さく呟いた。  一安心したものの、鷹が体勢を整えて、再度猫を狙ってこないとは限らない。  身の危険を感じた猫は武の方へ避難する。 「お前、狙われてやんのー」 「うるせー」 「やっぱり、鷹は動くものを追う習性があるんだな」 「しらねーよ」 「もう一回やってみない?」 「何を?」 「鷹が猫を狩るかどうかゲーーーム!」 「やらねーよ」 「僕の仮説によれば、鷹は動くものを追うと思うんだ」 「それで?」 「さっきはお前がすごい勢いで走っていったから、鷹はお前めがけて飛んできた」 「たしかに・・・」 「鷹が飛んできても、じっとしてたらセーフじゃない?」 「やらねーよ」 「またまたー、そんなこと言ってー。実はやりたいんじゃないの?」 「んなわけあるかー! 猫の命をなんだと思ってんだ?」  武と猫が口論していたら、鷹を持った中年の男がやってきた。  中年男は鷹匠の出で立ち。武の推理では、中年男は害鳥駆除業者か、金持ちが趣味で鷹狩をしているかのどちらかだ。着ている鷹匠ウェアがちょっと高そうな気もする。  そうすると、鷹狩りをしている金持ちか・・・ 「ここがどこか、あのオッサンに聞いた方がよくないか?」と猫が言う。しかたないから、武は中年男に聞くことにした。 「こんにちは! 僕たち、道に迷ったんだ。ここがどこか教えてくれないかな?」  そう尋ねた武を中年男は睨みつけている。どうやら怒っているようだ。  何に怒っているのか分からないが、なんとか意思疎通を図ろうとする武。 「おじさん、どうしたの? 何かあった?」  中年男は武を真っすぐに見て言った。 「ピーちゃんを撃ったのはお主か?」 「ピーちゃん?」  中年男は左手に乗った鷹を指さし「ピーちゃん」と小さく言った。  鷹は武を見てバタバタと暴れている。怖がっているのだろうか? ――あー、またヤバい奴か・・・  武は変な奴を引く能力があるらしい。寄ってくるのは大体こういう奴だ。  猫は「コイツ頭おかしいから無視しろ!」と武に必死に忠告している。  中年男はそれ以上の言葉を発しない。一人の中年男と一人の少年の間に沈黙が流れる。  長い沈黙に耐えかねた武、ついに言葉を発した。 「おじさんのピーちゃんを撃ったって、どういうこと? 僕、何も持ってないよ。ほら!」  武はそう言って中年男に両手を広げて見せた。中年男は「ふんっ」と鼻で笑った。 「ピーちゃんが、お主が撃ったと言っている」 「鷹がどうやっておじさんに言うのさ? おじさんは鷹と話せるの?」 「当たり前だ。話せるからそう言っている」 ――やっぱり、ヤバい奴だ・・・  武は猫と話せる。このロジックだと鷹と話をできる人間がいてもおかしくはない。つまり、中年男が鷹と話せる可能性は排除できない。  困った武は「お前、鷹と話せる?」と猫に聞いた。「ちょっとなら」と猫は言ってから、鷹に話しかけた。 「お前、俺の言ってること分かるか?」 「分かるぞ」 「お前はそこのオッサンと話せるのか?」 「ああ、話せる」  鷹語と猫語は似ているようだ。横で聞いていた武にも会話の内容は理解できた。 「えぇ? おじさんも動物と話せるの?」 「だから、そう言っているじゃろ。ところで、「おじさんも」ということはお主も話せるのか?」 「まあ、そうだね。僕は猫と話しができる」 「それでだ・・・お主、ピーちゃんを狙撃したのか?」中年男は武に尋ねる。  武が答える前に「お前さー、さっき俺に何か飛ばしただろ?」と横やりを入れるピーちゃん。 「だって、しかたないだろー。お前(鷹)、この猫を狩ろうとしただろ?」と武は言った。 「猫を狩る? ワシはピーちゃんに兎(うさぎ)を狩ってくるように言ったのだが・・・」  中年男は鷹を見た。  気まずそうな鷹のピーちゃん。中年男は「どういうこと?」とピーちゃんに尋ねる。 「だって、兎がいなかったんだよ・・・」ピーちゃんは気まずそうに答えた。 「へー。それで?」 「そこに猫が走ってきたから、まぁ猫でもいいかっと思って・・・」 「「まぁ猫でもいいか」ってどういうことだよ? そんな軽い気持ちで狩りをすんじゃねー」  猫は怒っている。  中年男は状況を理解したようだ。 「それは、申し訳ないことをした。この通りだ」と中年男は言って、猫に謝罪した。 「まあ、僕も狙撃して悪かったよ。手加減したけど、ケガはない?」  武もピーちゃんに謝った。 「ところで、お主の名は?」  武の前に立つ中年男が言った。
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