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独眼竜オジ宗
※第1話の続きからスタートします。
武は自称伊達政宗に尋ねた。
「本当に伊達政宗なの? 眼帯してないのに?」
「あれは戦用じゃ。普段はしておらん」
「右目が左目よりも少し小さいだけだよね。これだと独眼竜というより、片目が小さいおじさんだね」
「うるさいなー。ワシは隻眼(せきがん)なんじゃ。右目は見えとらん」
「本当に?」
「本当じゃ!」
「まあ、いいけど」
自称伊達政宗とこれ以上言い争うのが面倒くさいから、武は右目が隻眼かどうかは放っておくことにした。一方の自称伊達政宗は、自分が政宗であることを武に主張する。
「これで、ワシが伊達政宗だと、お主は納得したわけじゃな?」
「そんなわけないでしょ」
「なぜじゃ? 隻眼じゃ。独眼竜じゃ!」
「隻眼の人なんていっぱいいるでしょ。だから、おじさんが伊達政宗である証拠にはならない」
「なんじゃと?」
「何か証拠ないの?」
「無礼な奴だな。ワシの城に連れていけと言うのか?」
「そこまではいいよ。そんなに興味ないから。それに、若い伊達政宗だったら良かったんだけど、オジ宗じゃあなー。はぁ、本当に残念だよ・・・」
「無礼者―。オジ宗とは何じゃ?」
オジ宗と言われた自称伊達政宗は怒っている。今にも腰に差している刀を抜きそうな勢いだ。
ただ、自称伊達政宗にも武士としてのプライドと世間体がある。子供相手に刀を抜く、これは武士として恥ずかしい行為だ。もし誰かに見られたら、小物だと思われてしまう。
それに、ピーちゃんが猫を襲って迷惑を掛けたところだ。刀を抜いたら恥の上塗りになってしまう・・・
自称伊達政宗は怒りを鎮めるために大きく深呼吸をした。落ち着きを取り戻した自称伊達政宗に武は尋ねる。
「オジ宗に聞きたいことがあるんだ」
「なんじゃ?」
「僕たち、道に迷っちゃったんだけど、ここはどこ? 伊達政宗だから仙台あたりかな?」
「いかにも。ここは仙台じゃ」
「へー、さっきまで東京にいたのに、仙台まで飛ばされたのかー」
「東京?」
自称伊達政宗は聞きなれない地名に疑問をもったようだ。
武は空気を読んで、江戸時代の設定で自称伊達政宗の質問に答える。
「ああ、伊達政宗の時代だったら江戸だね。江戸幕府が終わった後、地名が東京に変わったんだよ」
「江戸幕府が終わる?」
自称伊達政宗はこの「江戸幕府が終わる」に衝撃を受けたようだ。
伊達政宗は野心家。ひょっとしたら『自分が江戸幕府を終わらせたのでは?』と考えているのかもしれない。
自称伊達政宗は少し考えてから「いつじゃ?」と武に聞いた。
「僕は今がいつか分からない。けど、オジ宗が本当に伊達政宗だったら、だいぶ先だよ」
「だいぶ先?」
「うん、少なくとも200年以上は先だね」
「そうか・・・ワシが幕府を倒すわけではないのだな」
「まあね。オジ宗は何度かチャレンジしたんでしょ?」
「なぜそれを?」
自称伊達政宗は脇差に手を掛けた。武を危険だと認識したようだ。
「心配しなくていいよ。本で読んだんだよ」
「本で読んだ? お主が何を言っているのか分からぬが、お主は未来を予知できるのか?」
自称伊達政宗は「今は江戸時代だ」と言っている。
石碑を触ったことで東京から仙台に、昭和から江戸時代にタイムスリップしたのか?
武はまだ半信半疑。だが、残念ながら情報源がこの中年男しかいないから、とりあえず自称伊達政宗の話に乗っかって情報を引き出すことにする。
「未来予知はできない。けど、僕たちは未来から来たから過去の出来事は知っている。オジ宗が本当に伊達政宗だったら、300年以上未来から僕たちは来たことになる」
「未来から来ただと?」
自称伊達政宗は武の言うことを信じてない。とはいえ、武も自称伊達政宗のことを信じていないからお互い様だ。一人の中年男性と一人の少年の探り合いは続く。
「お主、未来から来た証拠は? 何かあるのか?」
「うーん。そーだな。この服装は見たことないでしょ?」
「たしかに。お主、変な格好をしておるの。異国の衣装かのう?」
「元々は西洋の洋服だね。でも日本製だよ。300年以上後の日本だけどね」
「それだけでは信用できん」
――コイツ、面倒くさいな・・・
自称伊達政宗は納得していないから、武は別の話をすることにした。
「じゃあ、次の将軍を教えてあげようか?」
「なんじゃと?」
自称伊達政宗、これには食いついた。
ニヤニヤしている顔が気持ち悪い・・・
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