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将軍様を呼び捨てとは重罪人だぞ!
自称伊達政宗はニヤニヤしながら武に質問する。
「お主、本当に次の将軍様を知っておるのか?」
「そりゃ知ってるよ。だって、僕、未来から来たんだから」
自称伊達政宗は大きく深呼吸した。
「よいぞ、申してみよ!」
「まず、今は何年?」
「慶長17年じゃ」
「慶長だと分からないよ。西暦で何年?」
「西暦?」
「あぁ、まだ西暦を使ってないから知らないか」
※慶長17年は1612年です。
武は「お前知ってる?」と猫に聞いたが、「知らねーよ!」と猫は小さく言った後、「今の将軍の名前を聞けば?」と武に言った。
その通りであることに気付いた武。少し恥ずかしい。
今の徳川将軍が分かれば、大体の時代が推測できる。伊達政宗が仙台にいるのだから、家康ではないはずだ。
猫は「コロンブスの卵だなー!」と武をからかう。
武は自称伊達政宗に質問した。
「じゃあ、今の将軍は家康? 秀忠? それとも家光?」
「お主、将軍様を呼び捨てとは重罪人だぞ!」
「そんなこと言われても、僕はこの時代の人間じゃないからさ」
「無礼者が!」
「まぁ、細かいことはいいじゃん。それで、将軍は秀忠? 家光?」
「無論、秀忠様じゃ」
「じゃあ、次の将軍は家光だね」
武は今が1610年くらいだと推測した。
※徳川秀忠(二代将軍)は1605年~1623年まで将軍に就いていました。
自称伊達政宗は武の言った次の将軍に興味を持っている。
「本当なのか? 次は家光様が将軍になるのか?」
「そうだよ。三代将軍は徳川家光だよ。仲良くしといた方がいいよ」
「本当に本当か?」
「本当だよ」
「それはいいことを聞いた」
自称伊達政宗の顔はニヤニヤしている。
「そこだよ! 僕がオジ宗のこと好きじゃないのは」
「お主、またしても・・・オジ宗と・・・」
「やる事がせこいんだよ」
「なんじゃと?」
自覚のない自称伊達政宗。武は伊達政宗がどのように現代に伝わっているかを教えることにした。
「オジ宗は直ぐに裏切るでしょ?」
「ワシが裏切るだと?」
「そう。例えば、豊臣秀吉に従属するそぶりを見せながらも、農民の一揆を扇動した。そうでしょ?」
「ぐぬぅぅう・・・なぜそれを知っておる?」
「他にもあるよ。オジ宗の伯父の最上義光が上杉軍と戦っていた時、最上軍からオジ宗に救援要請がきたよね?」
「ああ、そうだな。あれは10年前くらいか」
「そのとき、最上軍が敗れて、上杉軍が疲弊したところを攻め込んで最上・上杉の陣地を総取りしようとしたよね」
「ぐぬぅぅう・・・」
※1600年のことです。わずか1日で徳川家康率いる東軍が天下分け目の合戦・関ヶ原の戦いを制したので、伊達政宗の思惑は外れました。
「あと、なんやかんやで上手く死罪を乗り切ったよね?」
「なんだと?」
「豊臣秀吉に北条氏攻めを加勢するように言われたとき、オジ宗は行かなかったよね?」
「そうだな。行きたくなかった」
「双方が潰し合った後、オジ宗は秀吉を攻めるつもりだったからでしょ?」
「まあな、あの頃はワシが天下を取るつもりだった・・・」
自称伊達政宗は遠くを見ている。面倒くさいから、武は回想する自称伊達政宗を無視して話を続ける。
「オジ宗の予想は外れて、早く北条氏が降伏しそうになった。オジ宗はその時どうした?」
「勝ち馬に乗る!」
「正解! オジ宗は大慌てで豊臣秀吉に加勢した」
「加勢しなかったら、次に秀吉が攻めてくるのは伊達だからな・・・」
武は確信に迫るべくニヤニヤしながら自称伊達政宗に言った。
「そのとき、どういう格好して秀吉に会いに行ったの?」
「ワシの口からそれを言わせるのか? お主、知っておるだろ!」
「もちろん知ってるよ。でも、オジ宗の口から聞きたいなー」
「知らん、忘れた・・・」
自称伊達政宗は口を噤(つぐ)んだ。
「あっ、そう。いいよ。僕が言うよ。白装束を着て行ったら、秀吉が許してくれたんだよね?」
「ぐぬぅぅう・・・」
※伊達政宗は反省の意を示すパフォーマンスとして髷(まげ)を切り、死装束を思わせる格好で秀吉に謁見したといわれています。こんなイメージです。
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