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逸話でいじりたい少年と情報を聞き出したい中年男
オジ宗をいじるのが面白くなってきた武は、自称伊達政宗に次のエピソードを話す。
「白装束のパフォーマンスはもう一回使ったはずだ。そうだよね?」
「なんのことじゃ?」
「一揆の・・・」
「ああ、農民の一揆を扇動したときだな」
武はニヤニヤしながら自称伊達政宗に言った。
「あの時は、白装束だけじゃダメだと思ったんだよね?」
「まぁな、白装束は秀吉の前で一回やってるからなー」
「だよね。あの時は、白装束からのー?」
「磔柱(はりつけばしら)?」自称伊達政宗は小さく言った。
「正解! 正確には、白装束に加えて黄金の磔柱を持っていった。そうだよね?」
「そうだな。あれは、秀吉には好評だった」
※こんなイメージです。
自称伊達政宗は愉快そうに笑っている。大人に怒られた少年のようだ。
見た目はおじさん。でも、中身は子供。
武はイラっとしながら自称伊達政宗を見ている。武は伊達政宗が好きじゃない。なぜか?
伊達政宗のやっていることが、武には子供の悪ふざけに思える。武がふざけているのと大差ない。
つまり、自分を客観視しているようで、イライラするのだ。
武は伊達政宗に対する嫌悪感の原因を理解した。
「そういうところだよ・・・。僕がオジ宗を好きじゃないのは」武は小さく呟いた。
一方の自称伊達政宗も武を観察している。
この少年(武)は伊達政宗のことを好きではない。が、伊達政宗のことをかなり詳しく知っている。もし武が未来から来たのであれば、使える情報があるはずだ。
自称伊達政宗は、武から新たな情報を聞き出すことにした。
「まあ、今までの話は過去の話だ。お主が未来から来た証拠にはならん。今よりも後の話、つまり未来の話はないのか?」
「あるけど、何がいいかな? オジ宗の逸話は多いんだ」
「逸話じゃと?」
「うん。あっそうだ、これは?」
「どういう話だ?」
武は思い出した家光と伊達政宗の逸話を話すことにした。
「オジ宗はこれから家光と仲良くなるんだ」
「家光様は次の将軍様じゃな」
「そうだよ。オジ宗は三代将軍・家光の顧問のような存在になる。家光からは『伊達の親父殿』と呼ばれていたらしい」
「『伊達の親父殿』か・・・いい響きじゃ。他にはないのか?」
「あとは陰で『副将軍』と言われていたらしいよ」
「陰の副将軍か・・・。なかなかいいのー」
副将軍と言われた自称伊達政宗は満足した顔をしている。もはや天下を取ることは、どうでも良さそうだ。
「それで、家光から酒宴に招かれることが多くなる。オジ宗がジジ宗になった酒宴のときに・・」
「お主、いまサラっとジジ宗と言いおったな!」
「まあ、いいから。話を聞きたいんでしょ?」
「うぬ・・・」
「酒宴のときに、家光から脇差を帯びたまま参加を許可されるんだ」
「将軍の前に帯刀したままか?」
帯刀したまま将軍に会う、自称伊達政宗はその状況に驚きを隠せない。
「そうだよ。その酒宴でジジ宗は飲み過ぎて寝てしまうんだ」
「なんと・・・将軍様の前で・・・武士失格じゃの」
自称伊達政宗は少し落ち込んでいる。
「この話には続きがあるんだ」
「恥の上塗りじゃないのか?」
「違うよ。オジ宗にはいい話だ」
「よかろう。聞こうじゃないか!」
「酒宴で寝た後、家光はジジ宗の脇差を確認させたんだ」
「どうなったんだ?」
「その脇差、木刀(竹光)だったんだよ」
「なんと・・・」
「帯刀を許されたと言っても、将軍は完全に信用しているわけじゃないよね?」
「そうじゃの。ワシが刀を抜くかもしれんからの」
「帯刀しているのが竹光だったら、抜いても切れないでしょ」
※こんな感じです。
自称伊達政宗は逸話を聞いて「我ながら天晴れじゃのー」と感心している。
「それから家光はますますオジ宗を信用したらしいよ」
「これはメモっとかないといかんな」
自称伊達政宗は懐から紙と筆を出して、今の顛末をメモした。メモを書いた自称伊達政宗は武の方を見ている。
「次は? 他に役立つ情報はないのか?」
「役立つ情報かー。あれはもう終わったのかな?」
「あれとは何じゃ?」
「スペイン、えぇっと、エスパーニャに支倉常長(はせくら つねなが)を派遣するやつ」
「慶長遣欧使節のことか?」
「そう、それ。もう終わった?」
「いや、今からじゃ。お主、結果を知っておるのか?」
自称伊達政宗は慶長遣欧使節に異常な食いつきを見せた。
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