過去、現在、……未来。

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 もちろんそれくらい知ってるよ。  あくまでも娘の立場からとはいえ身に沁みて知り尽くしてるけど、真顔で口に出して言われるのはやっぱインパクトが違うってもんだ。 「もし、……もしも時間が戻せるなら私はもう結婚はしないと思う。でもそしたらあなたにも会えないじゃない。亜紀(あき)がいるだけで全部帳消しなの」  ついさっきとは打って変わった柔らかい笑顔で、ママが紡ぐ言葉があたしの心を満たす。 「結局、人生なんて死ぬときまでわからないと思うわ。でもね、私の『人生の収支』はパパで大幅マイナス食らっても亜紀がいるだけで完全にプラスなのよ」 「ママ、──」  喉が詰まったようで声が出ないあたしに、ママは辛辣な台詞を続けた。 「正直、夫婦としていいことは何もなかったし、あいつは親としても役立たずでしかなかったわ。でも結婚して夫婦として過ごした時間がなければあなたはいなかった。これだけは確かよ。──だから戻りたくないわ。あなたのいないどんな時代(とき)にも」  不覚にも涙腺が緩みそうになって、あたしはぐっと奥歯を噛み締めた。  だってさ、恥ずかしいじゃん。「ママ~。やっぱあたし、ママ大好きぃ~」って泣いて抱き着くには、ちょっとばかしヒネちゃってんのよ。  だからすっとぼけて誤魔化そうとしたけど、きっと目の前のこの人には通じない。
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