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夜の湖はハープが弾けるように優しく、波を立てている。まるで夜空をそのまま映したような水面には幾つもの月光が反射して、ぼんやりと揺れている。最寄り駅から徒歩5分程度のところにある海を見渡せる丘は、昔から地域の憩いの場となっていた。
「久しぶりだね、こうやってここに来るなんて」
さっき買ったばかりの花束を抱え、彩羽は遠い海を見つめた。
「だね。なんか、中学の時に戻ったみたい」
「そっか、そうだね。もうあれから10年が経ったのかぁ。何だか感慨深いなあ」
「…少し、あそこのベンチで話そう?」
「いいよ。そうしよっか」
くるっ、と艶のある髪をなみびかせ、彩羽は藍の手を引き丘のてっぺんまで走り出した。そんな姿を藍は愛おしそうに眺めるのであった。
「わー! やっぱてっぺんだと眺めがまた違うね~」
「だな。すげぇ」
「あの頃は夕日の海しか見れなかったけど、今になると夜の海が見れるでしょ? それも大人になったって感じ」
「って言っても俺らほぼ夜の海はしょっちゅう見てたけどな」
「確かにね? 少しばかり、やんちゃな学生でしたから」
思い出話に浸れながら二人は肩を寄せ合って懐かしがる。中学校の同級生であり、部活帰りによく寄り道したのがこの丘の公園であった。いつも日が暮れるまで談笑していた記憶が彩羽の脳裏に蘇る。
「あ――海をこの場所から見るのって彩羽だけなんだよねぇ実は」
「そうなの? じゃあ、二人だけの場所だね?」
「まあな」
はにかみながら藍は自分の髪を撫で、前を見つめた。
藍は緊張しているときか、何かを言おうとしているときに髪を撫でる癖がある。そんな様子に気が付いた彩羽は優しく微笑んで、尋ねた。
「どうしたの、藍?」
「ん?」
その笑顔は次第に藍の顔へと広がり、とろけるように藍は口角を上げた。
「また髪撫でてじゃん。だから」
「あー撫でてた? 無意識だわ」
「藍ってそういうとこ可愛い」
「…彩羽のそういうとこも好き」
「……っ、藍~‼」
なんて言いあって一笑いしたところで、藍は深呼吸をし真剣な眼差しで彩羽を見つめた。
「じゃあ、言うわ。言おうとしてたこと」
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