年が明けて

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香澄は俺の身体を、よりにもよってグーで叩く。 「いて!いて!いってーよ、香澄!俺は怪我人だぜ?」 「だったら、こんな事しないでよ!ブラックジョークでも酷すぎるわ!サイテー!!」 俺は本当に痛かったが、香澄は俺の身体を叩く…いや、殴るのをやめねー。 更に。 「保ー、タマナグミのレモン味、酸っぱくて不味いよう。やっぱりタマナグミはイチゴ味が美味しいよう」 山村がいつの間にかタマナグミを食べながら、香澄の事を止めもせずに俺に言う。 「あ!山村!俺のタマナグミ勝手に食いやがって!」 「千夜くんがそもそも僕達を驚かせようとしなければ、山村先輩も食べなかったと思いますが?」 俺は、思わず舌打ちしたが、安心したんだろ。 安堵の涙が流れてきた香澄の頭を優しく撫でた。 「悪かったよ。頼むから、これ以上は勘弁してくれ」 「だって、私が…私達がどんな思いで毎日病院に通ったと思ってるのよ…」 「香澄…」 「千夜くんのバカ!もう知らない!」 香澄は涙声で、そう叫ぶと俺の手を払いのけた。 「悪かったって」 俺は、意識不明の間に、どれだけ香澄等に心配を掛けていたのか。 香澄の涙を見て、罪悪感に駆られた。 「でも…良かった。千夜くんの意識が戻って…」 「応!田中から大体の話は聞いたぜ。玉名組、壊滅したってな」 俺の意識が戻った時に病室に居た田中から、あれから玉名組とどうなったかという話を始めに聞かされていた。 「今頃、千夜組のお屋敷では警察が介入して、逮捕されている組員さんもいるでしょうね」 鈴木がメガネのツルを上げながら言った。 ともあれ。 無事に意識が回復した俺に香澄は笑顔で言った。 「…お帰り、千夜くん」 「帰りが遅くなって悪かったな、香澄」 俺はニヤリと笑って、香澄に応えた。 それから、もう1つ。 「後、山村の事は後で絞めるからな」 「千夜くん!タマナグミを山村先輩に食べられたのは自業自得でしょう!」 「鈴木くんの言う通りだよー!」 「るっせ。食いモンの恨みは恐ろしいんだよ」 俺等、野郎3人が騒ぐのを、涙をハンカチで拭きながら、泣き笑いの表情になる香澄。 こうして、年の始めに、生と死の淵を彷徨った俺は香澄等の元へ無事に帰ってきた。 完
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