古屋敷にて

1/6
前へ
/47ページ
次へ

古屋敷にて

「だ、大丈夫…少し痛いけど…」 呆然と香澄は鈴木に応えるが、その視線は明らかにブラウスのシミに向いている。 俺は絞め上げたままの山村をいきなり離すとコートを着た。 「ゴホ!ゴホ!」 ソファー席に倒れ込んだ山村を鈴木が心配そうに言う。 「大丈夫ですか?!山村先輩!」 この際、大丈夫じゃなくても知ったこっちゃねー。 俺は香澄の分まで荷物を片手で持つと、もう片方の手で、シミが隠れる様にコートを羽織らせた。 「千夜くん…?」 「古屋敷まで急いで帰るぞ、香澄。着いたら先ずは手当てと洗濯だ」 俺はそう言うと、まだ苦しそうに咳込んでいる山村と鈴木を置いて、とっとと喫茶店を出ようとコーヒー代2人分をテーブルの上に置く。 「済みません!諸橋さん!」 「コッチこそごめんね。後で連絡するから」 ったく、謝らなきゃいけねーのは山村の方だ。 俺は香澄が立ち上がってコートのチャックを閉めるのを見ると腕を引き、帰路に着いた。 古屋敷に着いた頃には辺りはもうすっかり暗くなっていた。 俺はシェアするラッピング用紙等、荷物を居間に置くと香澄の元へ行った。 香澄が洗濯機の前でブラウスを脱ぐ。 上半身が色っぽい下着姿になるが、今はそれどころじゃねー。 幸い火傷の方は、微かに紅くなっているだけで、そんなに香澄は痛がってねー。 だが、氷嚢をしばらく当てておいた方が良いだろう。 「香澄、火傷したところにしばらく氷嚢を当てておけ」 「解ったわ。今、持って来る。でもブラウスのシミはどうするの?」 「それだが、漂白剤の塩素系でないとシミは落ちねーからな?洗濯機にかけるのは仕上げで先ずは、こうして…」 香澄が氷嚢を持って来て、火傷したところに当てながら、俺の手元を見てる。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加