26人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は仕方なく電話に出た。
「もしもし」
『もしもし、坊ちゃん。今、どこですか?』
「香澄の古屋敷だ。田中、親父はケーキを完食してたか?」
俺は流し台をよく見ないで出掛けちまったので、気になる事を訊いてみた。
だが、電話の向こう側で田中が言葉に詰まったのが解った。
『それが…あいにく…残してらっしゃいやした…』
田中が言いにくそうに言う。
鈴木の言った通りだな。
明日の月曜も帰ったら、練習するしかねー。
「わーった。田中、あんたのせいじゃねー。余り気にすんな」
「お父様、納得しなかったの…?」
小声で香澄が訊くので、俺は黙って頷いた。
香澄も神妙な表情になって、俯く。
田中も沈んだ声のまま言った。
『勿体ないお言葉…。坊ちゃん、あっし、今から車で迎えに行きやす。お腹空いているでしょうから』
そういや、腹減ったな。
俺は、そうしてもらう事にした。
「じゃあ、古屋敷の前で待ってるぜ」
『はい、少々お待ちになっていてください』
そう言うと電話は切れた。
俺はソファーまで行くとコートを着る。
「千夜くん、帰るの…?」
名残り惜しそうに、俯き加減で香澄は立ち上がった。
「ああ。…何、明日になったら学園で又逢える。外は寒いから見送りはいらねーぜ」
最初のコメントを投稿しよう!