古屋敷にて

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俺は仕方なく電話に出た。 「もしもし」 『もしもし、坊ちゃん。今、どこですか?』 「香澄の古屋敷だ。田中、親父はケーキを完食してたか?」 俺は流し台をよく見ないで出掛けちまったので、気になる事を訊いてみた。 だが、電話の向こう側で田中が言葉に詰まったのが解った。 『それが…あいにく…残してらっしゃいやした…』 田中が言いにくそうに言う。 鈴木の言った通りだな。 明日の月曜も帰ったら、練習するしかねー。 「わーった。田中、あんたのせいじゃねー。余り気にすんな」 「お父様、納得しなかったの…?」 小声で香澄が訊くので、俺は黙って頷いた。 香澄も神妙な表情になって、俯く。 田中も沈んだ声のまま言った。 『勿体ないお言葉…。坊ちゃん、あっし、今から車で迎えに行きやす。お腹空いているでしょうから』 そういや、腹減ったな。 俺は、そうしてもらう事にした。 「じゃあ、古屋敷の前で待ってるぜ」 『はい、少々お待ちになっていてください』 そう言うと電話は切れた。 俺はソファーまで行くとコートを着る。 「千夜くん、帰るの…?」 名残り惜しそうに、俯き加減で香澄は立ち上がった。 「ああ。…何、明日になったら学園で又逢える。外は寒いから見送りはいらねーぜ」
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