26人が本棚に入れています
本棚に追加
時は少しだけ遡る。
私はトイレに入っていた。
でも、トイレの外から銃声や人のドタバタとした足音、物が落ちたり割れた音が聞こえてきて、怖くなってきた。
まさか玉名組が押し入って来たんではないだろうか?
ただ事ではない雰囲気がトイレの中まで伝わってくる。
このまま静かになるまでトイレに居た方が良いかもしれない。
ところが、千夜くんのくれたプレゼントをリビングに置いてきたのを思い出した。
この怒声と轟音の中、プレゼントが壊されたら…。
私は怖かったけど、トイレの扉を、そっと開けてみた。
廊下の向こう側から、人同士が殴り合いや、凶器で傷付け合うシルエットが見えた。
私は、なるべく人の気配の無い方向へ、そっと歩いた。
と、リビングに戻る前に、外に繋がる勝手口に着いてしまった。
外からも、物騒な声や音がする。
私は引き返そうかとも思ったが、その前に、千夜組とは違う色の格好をした、ヤクザに見つかってしまった。
「千夜組の奴は女だろうが殺す!」
「キャー!千夜くん、助けて!」
私は頭を抱え、その場にうずくまった。
と、「うぐ…っ!」と言う声と共に直ぐ近くで人が倒れる音がした。
「何でこんな所に居るんだ?香澄!」
聞きたかった声に私は訳を話そうと顔を上げた。
その瞬間、私は我が目を疑った。
満身創痍で、血まみれになった千夜くんが血に染まった鉄パイプを片手に、真っ赤に染まったもう片方の手を私に差し伸べている。
最初のコメントを投稿しよう!