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「千夜くん!千夜くん!!」
「香澄…そんな顔するなって言っただろ…早く逃げろ…」
「嫌よ!逃げるなら、千夜くんも一緒に!」
「無茶言うなよ…香澄…さっきも言ったが…玉名組の狙いは…俺と…」
そこまで言うと、俺の視界はぼんやりとし始めた。
愛しい香澄に触れようと、右手をあらぬ方向へ伸ばした。
真っ赤な手をフラフラ揺らすが、香澄に触れられずに俺は言う。
「香澄…どこに…居る…んだよ…畜生…視界が…霞んで…」
「ここに居るわよ!だから、死なないで!千夜くん!!」
香澄の声がヤケに遠くから聞こえたと思うと、両手で強く手を握られる感覚がした。
だが、握り返してやるだけの力は俺にはもう無かった。
「ああ…香澄の膝枕…悪くないぜ…」
「んもう!こんな時まで!」
「香澄…生きろ…俺…の…分…まで…」
「やめてよ!私は千夜くんと一緒に生きたい!」
「香澄…あんた…と…過ごした…時間…楽しかった…ぜ…サンキュー…」
それきり、俺は声を出せなくなった。
目も開けていられない。
不意に暖かい雫がポタポタと俺の顔に落ちてくる。
今は冬なのに、まるで香澄と初めて出逢った頃の春に降る雨の様だ…。
そう思ったのを最後に俺の世界は暗転した。
「…千夜くん?…千夜くん!目を開けてよ!私をからかっているんでしょう?!」
「…」
涙がさっきから溢れて止まらない。
「お願い…だから…本気にすんなよって…言ってよ…」
「…」
「お嬢さーん!」
遠くから田中さんらしき人が呼んでいる声が聞こえてくる。
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