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first story はじまりの関係
俺には、大切な、護りたい彼女がいた。
彼女は、俺が中学の頃に向かいに越してきて、
引っ越しの挨拶に来たのがきっかけで出会った。
知り合いがいなかった彼女を、俺は何かと気にかけ、
やがて、彼女は俺の初恋となった。
そしてもう一人の人物。
彼は、小学校からの友達で、
何でも話せる親友だった。
二人とは、大学に進学しても、
社会人になっても、定期的に会っていた。
互いの近況を伝え合い、仕事の愚痴を語り合う。
俺にとって、二人はかけがえのない、大切な人たちだった。
そんな三人の関係に、ある日、変化が訪れる。
「ねえ」
彼女が聞いてきたのは、親友の彼のこと。
「彼、誰か好きな人、いるのかな?」
彼女は、俺に目を輝かせながら聞いてくる。
「さあ、どうだろう…。俺は知らない」
俺は、曖昧に応えた。
「そう…」
彼女は、俺の言葉を聞いて、何やら思案していた。
やがて、次の定期的な集まりでのこと。
いつものように店を予約して、俺が先に来て待っていると、
いつもは別々にくる二人が、
並んで、仲睦まじく俺の前にやってくる。
親友は、彼女の肩を抱いて、俺の心を抉る一言を放つ。
「俺達、付き合うことになったんだ」
二人は、幸せそうに笑う。
俺は、目の前が真っ暗になりながらも、
抉られた心を必死に隠し、乾いた笑みを浮かべ、
「そっか、おめでとう」
二人に、上辺だけの祝福を送った。
これがはじまり。
俺と彼女と親友。
俺たち三人の心の行く末が、
決定的にズレた、そのきっかけ。
ズレたベクトルは、再び重なることなど終ぞなく、
それぞれが、それぞれの結末を迎える事となった。
これは俺が、恋焦がれ、狂おしいほどに会いたい人。
その彼女の話だ。
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