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story03 癒せぬ心
それから俺は、彼女の家に通うようになる。
おばさんに頼まれ、毎日彼女の部屋へと向かう。
彼女の元へ向かうと、彼女は毎日俺に縋りつき、嗚咽を零す。
「どうして…、何で…」
彼女は俺の胸に縋り、シャツを握りしめ、
ただただ泣き続けた。
彼女の涙は、俺の心も振るわせる。
昇華した彼女への恋慕が、頭をもたげてくる。
遣る瀬無い想いが溢れてくる。
俺は、彼女を抱きしめることはしなかった。
たとえ俺が抱きしめてやったとしても、
傷が深くなるだけで、癒すことはできないから。
彼女の部屋が焼け、赤く染まり、陽が沈む。
彼女が泣き疲れ、意識を沈め、眠りに落ちるまで、
俺は今日も、彼女にただ寄り添った。
彼女をベッドに寝かせ、上掛けをかけてやる。
「おやすみ」
彼女の頬をするりと撫で、
俺は彼女の部屋を後にした。
階段を降りいてくと、
足音を聞きつけたおばさんが、
俺のところへやってくる。
「今日もありがとう」
「いいえ、また明日来ます」
そう言って、向かいの自宅に戻った。
毎日毎日彼女の元へ向かう。
毎日毎日彼女の慟哭を受け止める。
俺は、毎日ただただ彼女の悲しみを受け止め、
彼女の痛みに寄り添い続けた。
そんなある日、俺は仕事が休みの日に、
ある場所の予約を取り、旅行の計画を立てた。
おばさんに許可を取り、彼女に伝える。
「俺と一緒に出掛けない? 少し空気を変えに行こう」
彼女にそっと伝えると、
意外にも彼女は首を縦に振ってくれた。
そして当日、
空は雲一つない青空が広がっていた。
俺はその日、レンタカーを借り、
彼女を一泊旅行に連れ出した。
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