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夜、眠る段になり、彼女の部屋で眠るまで傍につく。
「お前が眠るまで傍にいる。だから少しでも眠れ」
「…………ねぇ、一緒にいて欲しい。図々しいお願いだけど、傍にいて欲しい。眠れないの」
「…わかった」
シングルベッドに二人で眠る。
互いに背を向けて。
でも、狭いベッドの上、
背中同士が密着した。
彼女の体温が、俺の体温と溶けあっていく。
やがて、背中越しに彼女の心の機微が流れてきた。
彼女は、声を出さず、ただ静かに泣いていた。
彼女の哀泣は、捨てられた悲しみの涙。
彼女の嗚咽は、自分を責める悲鳴。
彼女の慟哭は、アイツへの未練。
愛してる。
そう彼女に告げられたらどれほどいいだろう。
だけど、
俺の愛は、告げることさえ許されない。
俺の心は、彼女には見えていなかった。
遠くに湖畔の波音が静かに響く。
彼女がアイツの未練を、穏やかに断ち切ってほしい。
そう願い、
俺はあえて、街の喧騒から彼女を遠ざけた。
二人きりの部屋で、外が白みだし夜が明ける。
あれからしばらくして、彼女は泣き疲れて落ちた。
背中越しに、彼女の息遣いを感じる。
俺は、彼女が起きるまでじっとしていた。
やがて、カーテンの隙間からの日差しで、
「………ん」
彼女が静かに目を覚ました。
一呼吸おいて俺も起きる。
「おはよ。少し眠ったみたいだね」
「………おはよう。昨日はごめんね。ありがとう」
「謝らなくていい。俺が勝手にしたことだから」
無意識に、俺の手が彼女の頬を滑る。
「顔を洗いに行こう。そして飯だ」
「………うん」
二人で顔を洗いに向かった。
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