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story05 別れ
この旅行で、彼女の表情が少し、柔らかくなったと感じていた。
午後、再び車に乗り、帰路につく。
行きと同じように、俺から話しかけることはしなかったが、
今日は、ぽつぽつと彼女が話し出す。
「昨日からありがとう。少しだけど、心の整理がついた気がする」
「そうか。また時間を作って出掛けよう」
「………うん、ありがとう」
それからも、戻るまでぽつりぽつりと会話を交わし、
「それじゃあ、また」
「……うん。じゃあ」
彼女は、俺に昔のような柔らかい笑みを向けてくれた。
これで少しでも、
彼女の心が軽くなっていてほしいと、
俺は心から願っていたが、
次の日の朝、俺の部屋の窓を染め上げた紅い光。
それが、俺の思考を真っ白にしてしまった。
その朝、けたたましいサイレンの音が、家の前で止まった。
俺は、カーテンを開けて窓の外を見て、血の気が引いた。
慌てて階段を駆け下りて、外に出ると、
おばさんが、彼女の名前を叫んでいた。
「おばさん!何があったんですか!?」
「………娘が、……………っ」
それだけ絞り出して、おばさんは崩れ落ちた。
動揺からか言葉が出ない。
「大丈夫ですか!?」
救急車は、彼女を乗せ、救急病院へ向かう。
俺も、おばさんとともに、
タクシーを拾い、病院へと向かった。
その夜、
彼女は、家族が寝静まった後、
独り、自らの命の灯を吹き消した。
母親に発見された彼女は、
病院で、すぐに処置が施されたが、
その甲斐なく、そのまま帰らぬ人となった。
ベッドに横たわる彼女の傍へ行く。
それは眠っているようにしか見えなくて、
「何で……。心の整理がついたと言ってたじゃないか…」
彼女の頬にそっと触れる。
その頬に、生きてる気配を感じることができなかった。
彼女の魂が、もう此処にはいないということが、本当に信じられなくて。
「起きろ。あんな奴なんかのために…死ぬな」
俺は、彼女の魂にそう呼び掛けた。
その時の彼女の心を想う。
暗闇で独り、
どれ程、怖かったか。
どれ程、辛かったか。
どれ程、淋しかったか。
冷たい床の上、その時の彼女はどんな想いだっただろう。
彼女の悲しみを、
俺は、誰よりも理解している。
ただ、彼女を護れなかった事を悔やんだ。
そっと、彼女の手に触れる。
白い手首には、ためらい傷。
そしてその指には、
アイツから贈られた婚約指輪が光っていた。
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