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「いい匂いね」
妻は淹れたてのコーヒーの香りを味わうように鼻のあたりでカップを揺らし、それからまっすぐに僕をみた。僕はわざと尋ねてみる。
「なに」
「手紙を書いて欲しいの。あなたならあのひとが喜んでくれる手紙が書けると思うの」
「なぜ僕が書けると思うの」
少々意地の悪い質問に、妻は、困惑の表情を浮かべて考えている。
「わからない。なんとなくそう思ったの。なんでかな」
なんでかな、ともう一度いうと、そのまま黙り込んでしまった。気の毒なことをした。
「わかったよ。書くよ。君は何も心配しなくていい」
無性に悲しくなった僕は代筆を請け負った。
よかった、ありがとう、と妻は目を細めた。
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