第五話   三十日後

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第五話   三十日後

 ―― 11名のみなさん! お疲れさまでした! 皆様、充実した日々を過ごせましたでしょうか!? 我々の考案した復讐者養成カリキュラム、きっと皆様のお力になれることでしょう! ――  30日ぶりにテンションの高いアナウンスが流れた。業はサバイバルナイフの手入れをしながら、音に耳だけを傾ける。手慣れた作業は流れるようにスマートに行われていく。  ―― 残念ながらカリキュラムを真っ当にできない方が数名いらっしゃいました。その程度の復讐心では、立派な復讐者にはなれません! 皆様には期待しております!! そしてそして! 明日からは実地研修を行います! ――  アナウンスで提示された人数は、学科が始まる前――この企画が始まった時の人数から約2割近くまで減っていた。そもそも46名という中途半端な人数というのも、果たしてそれがもともと(・・・・)その人数で(・・・・・)募集していたのか(・・・・・・・・)定かではない(・・・・・・)数字。たとえ中途半端だとしても、『復讐者を募る』という時点で怪しいことこの上なく、また、何があってもおかしくはないのだ。  それをわかっている人間。業は顔をスピーカーに向け、次の内容に興味を示した。  ―― 実務試験は、実際に生きた人間を対象にしたものです! その名もおおぉぉぉぉぉぉおおっ!! 【フクシュウ】ーーー!!! ――  今まで以上にテンションの高いアナウンス。今まで表情をほとんど変えてこなかった業でも顔を顰めた。その顔の示す感情は考えずとも察することは容易だ。  声の後ろから楽器やクラッカーのような音が鳴り響く。声の主は参加者の様子をわかっているはずだ。テンションの高低差は飛び降り自殺ができるほどに開いているだろう。空間認識能力がなく、視界を二次元的にしか理解できない場合を除いて、状況はわかるはずだった。なのに、なのか。だから、なのか。【フクシュウ】とふざけた名前をつけたのは。  ―― 皆様はドロケイ、またはケイドロというものをご存じでしょうか!? 警察役が泥棒役を捕まえるという遊びです! 今回は『復讐者(皆様)』と、死刑に相当する罪を犯した『囚人』で行っていただきます! ドロケイを知っていればもう察しがついてくれますよね? ですがルールは少し違います! みなさま正面をご覧ください!! ――  声が途切れると同時に、室内の明かりが消える。窓も扉もない、外界から閉ざされたこの場では、真っ暗になってしまうはずだった。けれど、そうはならなかった。業のいる部屋、教室の黒板に向かって、光が発せられたのだ。それはプロジェクターと言われる者に相違ない。
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