第六話   五日間

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第六話   五日間

 そして、参加者にはわからない日が昇った頃。アナウンスから心地よい音楽が流れてくる。それは誰のチョイスか、何を想っているのか。これから殺し合いのゲームが起こることなんてまるで知らなそうな音楽だった。  参加者で復讐者である業はその音楽で目を覚ました。瞼がぱちりと開いた。寝起きは良く、体調もすこぶる良い。寝袋から出て、関節を動かす。目線が動くと、部屋の様子が全く変わっていることに気づく。  眠っている間にまた誰かが入ってくるのはもう今更だ。けれど、今回は扉が用意されていた。否。扉が作られていた(・・・・・・)。  今日から行われる実地学習(イベント)のためだろうと予想するのは容易い。業は興味はあれど、近づくことは控えた。いつ首が締まるかもわからない。ここまできて、ちょっとした判断ミスで絶好の機会を失うことは避けたかった。寝袋から出て、下半身と体幹もストレッチ。体調は万全。軽い食事を済ませ、使い慣れた得物を確認する。  ―― おっはよーございまああぁぁぁぁぁああ……っすぅ‼‼ ――  小鳥に似つかわしくない鼓膜を引き裂きそうな声が部屋に満ちた。  さすがの業も無表情を崩し、不快に眉を寄せる。もちろんそんなことはお構いなしのアナウンスは、変わらない声量のままに声を発する。  ―― 待ちに待ったこの時が来ました!! さあ皆様! 準備は宜しいですか!? この後一斉に部屋の鍵を開けさせていただきます! ドアに首のチョーカーを近づけていただきますと自動で開きます! 扉の外はワクワク! ドキドキの! パニック・パンデミック・サスペンスです!! さあさあ存分に…… ――  お楽しみくださあああああああい!!!!!!  ガちゃん。  扉が開いたのであろう音がした。唐突に始まった実地。扉の外は通路と考えるのが普通の発想だろう。そして誰かが通る可能性がある。耳を澄ませると足音が聞こえるかもしれない。  業はルーティーンを始めた。体をほぐし、軽い筋トレ。メンテナンスした武器を使用した運動。今まで触っている機会が少ない武器も持ち方や重量感を確認。  ―― さっそくありました! 囚人≪模倣犯≫が復讐者≪放火≫を殺害! 計15ポイントです! ――  嬉々とした声をBGMに、業は黙々と作業を進める。一通りを丁寧に終えてから、胡坐をかいて目を閉じた。  この30日間、日常生活では学べないものが沢山あった。人の体を刻む感覚は当然。内臓の色や血飛沫の出方。獲物による切れ味の違い。そもそも獲物の扱い。筋肉と関節の切り心地。上半身と下半身の特有の固さ。満ち足りた日々。思い返し、イメージを重ねる。  業は5日間、部屋から出なかった。  ひたすらストレッチ、筋トレ、手入れ、精神統一、イメージトレーニング。繰り返し、繰り返し、念入りに備える。  その間も不定期でアナウンスが入る。囚人が殺した。復讐者が殺した。相打ち。一掃。聞いていると、パワーバランスが明らかになる。生き抜きやり遂げるための要注意人物も明確になった。
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