第二話   当日

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 —— ……ザッ……ガタ……ゴッ…… ——  数えること、6791秒。わかりやすく言えば1時間57分11秒。業は目を閉じながら、数を数え続けた。それが一体、世界でいう何午前・午後、何時何分何秒となるのかは定かではない。ただ業が起きてからそれだけの時間が経過したということがわかる数字だ。それだけの時間が経過したところで、どこからか不快な音が響いた。  —— ……キーン コーン カーン コーン…… ——  甲高く懐かしい鐘の音が天井から流れてくる。業はようやく目を開けた。二度目の景色もかわらず、クリーム色の長方形。けれど印象は変わった。音と景色。二つが合わさって、『学校』という言葉が反射的に湧いてきた。だからどう(・・)ということはない。ただここ(・・)がその可能性があるというだけ。業の記憶では、最後の記憶は裏路地だ。外から内にきたということが、1時間57分11秒でわかった事実だ。  —— 皆さん! ご機嫌麗しゅうございますでしょうか! ——  元気な声がする。生きた声だ。  拘束されたままの業は耳を傾けた。  —— この度は『復讐者養成所』にご応募いただき、誠にありがとうございます! さて、早速ではございますが、これから皆様には立派な復讐者となっていただくため、まずは勉強に励んでいただきます! その後、楽しく、また素早く立派な復讐者となっていただくため、本養成所では『オリジナルゲーム』を実地試験として導入しております! どうぞお楽しみに! —— 「ゲーム……」  思わず呟いたキーワード。言ってからハッとするも、滑らせた口を覆う手は拘束によって防がれた。  どんなゲームなのか、業はまだ知ることはない。そもそもゲームの前に『勉強』をするというのだ。『養成所』という言葉らしいといえばらしいだろう。  —— 皆様。そろそろ目は覚めてきた頃合いでしょうか? 只今より一斉に拘束を外させていただきます! そしたら1分以内に、台から降りてくださいませ! ——  身近なところで金属音がして、業は拘束が緩んだのを体感した。声の通り、拘束がさずされたのだろう。この場が養成所という形式上、教官にあたる存在が遠隔で操作したことになる。  拘束が緩んだことで両手が寝袋から出てくる。業は体を起こし、ファスナーとボタンを外した。台から降りて、解放された体で立つ。指。手首。足首。肘。膝。股関節。肩関節。腰。動きに問題はない。しかし首には違和感があった。触ってみると肌の上に何かがある。鏡を探そうと周囲を見渡すと、多くのナニカが前後左右の壁に所狭しと並んでいる。  —— 1分が経過しました! 台から降りていない参加者の皆様はここで脱落となります! お疲れ様でした! サヨーナラー! ――
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