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第三話 オリエンテーション
「脱落」
明るく陽気な別れの挨拶が、天井付近のスピーカーから放たれる。業は気になる二文字を呟いた。想像するに、「1分以内に台から降りろ」という指示に従わなかった者がいたのだろうと結論付けた。そして、業やいるとされている他の参加者の行動を把握しているのだろう。そして、把握したうえで、指示に従わなかったものは強制的に脱落となる。
ここで疑問に思うべきは『脱落』というのはどういうことなのか。ただこの養成所への参加が取り消しになる、ということだろうとは、業は思わなかった。なんせ、そもそも召集の際は眠らされ、起きたら見知らぬ場所に一人寝かされ、拘束して自由を奪っていたのだから。そして、未だに姿はなく、場違いな声のみ。怪しいことは申し込みの時点で承知の上。そう考えると、『脱落』という言葉にも不穏な雰囲気を感じ取るのは不思議ではない。
―― 皆様には説明していませんでしたが、説明しなくても指示には従ってくださいね? いちいち言わないとわからない人間、お断りなんですー。期限は守る! これは社会人としても大事なことじゃないですかねぇ? ――
ジェスチャーをしているとしたら、両手を横に開いて首を振っていることだろう。呆れている様子が手に取るようにわかる。表現力が達者なアナウンスだ。
―― 参加者の46名のうち、残念ながら11名は現時点で脱落となりました。皆様の首についている個体識別機能付きチョーカーによる収縮で、志半ばで現世を旅立っていただきました! 残念無念・また来世! 残りの35名の方々、お亡くなりになった方たちの分も頑張ってくださいね! ――
「絞まるのか、これ」
業は、首に触れた。首の違和感は個体識別チョーカーなのだろう。鏡を見る手間が省けたと納得した。
―― さて。生き残った皆様。寝袋の下に紙が貼りつけられています。そちらをご確認ください! ――
言われて、業は自分が寝ていた寝袋を畳んだ。確かに紙がある。
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【名前(偽名可)】
業(フリガナ:ナリ)
【身体状況】
年齢:24歳
身長:183cm
体重:90kg
疾患:なし
【参加動機】
※※※※※(個人情報により伏字)を嵌めた※※※※(個人情報により伏字)を殺す。
【希望する殺害方法】
刺殺
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