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パタン、と後ろ手に扉を閉め、代表取締役社長の卓上ネームが置かれた豪勢なデスクへ向かう父の背中を見届けながら自分は近くのソファへと腰掛ける。
「父さん」
「ここでは社長って呼ぼうか、楓真くん」
「自分は名前で呼ぶくせに…はいはい。社長、質問いいですか?」
「いいよ」
昨夜、十数年ぶりに再会したばかりの父の顔を改めてじっと見つめる。
さっきの光景が頭から離れない。
やっと見つけた自分の運命が、自分に全く見向きもしない、あの光景が…。
「社長とつかささんの関係は?」
「ん〜…社長と秘書、かな」
「あれが?」
ハッと鼻で笑ってしまう。
長いこと離れて暮らしていたとはいえ、この人は正真正銘自分の父だ。《特別》と《それ以外》の人間の区別くらいわからないはずがなかった。
譲らない気持ちで無言の攻防戦に応戦すれば、先に白旗を上げたのは父の方だった。
「やっぱりわかっちゃうか」
「そりゃあね」
よいしょっと座っていた椅子から立ち上がる父は俺が座るソファの目の前に置かれた対のソファまでやって来ると腰を下ろし、対面する。ゆっくり足を組む動作をさまになるなぁなんて思いながら、いまこの時間からこの人が敵になるのか、どうなのか、その宣告を静かに待つ。
そして、やっと開いた父の口から聞かされる言葉を、俺の脳はすぐさま正常に判断することができなかった。
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