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これまでの人生、αという性に惹かれ言い寄ってくる人間は男女問わず数え切れないほど存在したが、どれだけ求められようが、運命以外に一切見向きもしなかった。
必ず絶対、俺の運命を見つけ出す。そう思ってずっと生きてきた。それは、間近で父と母みたいな運命の番を見てきたら、余計その気持ちが大きかった。
「本当に、つかさくんが楓真くんの運命で間違いないの?」
「間違いない。絶対に。あの人が俺の運命」
確信を持ってそう言える。
あのエレベーターホールに一歩足を踏み入れた瞬間から、今まで感じたことの無いほど高鳴る胸の鼓動。彼が俺の呼び掛けに振り返って目が会った瞬間、雷に撃たれたかのような衝撃が身体中を走った。
つかささんという人物像をまったく詳しく知らない上に、話したのもたった数言だけ。それなのに、心惹かれる気持ちが止まらず、今では、つかささん、と名前を呼ぶだけで幸せな気持ちになれる。
これを運命と呼ばずして、何が運命だ。
「だから、これからは俺がつかささんを守る。今までの事は感謝してるけど、これからは俺の役目だから」
たとえ父さんでも、俺のΩに手を出すのは許さない。
「楓真くんも立派なαだねぇ、見ないうちに、本当に立派に育って……真由さんにも見せてあげたい」
「母さんにも挨拶してくる」
「うん、そうしてあげて。きっと喜ぶ」
今は亡き番を思って優しく微笑む父を、一歩離れた位置から眺める気持ちになってしまう。
――この人は、強い。
運命の番を亡くすなんて、想像しただけで生きていけない。
「つかさくんは繊細な子だから、十分気を使ってあげてね」
「わかってる」
「かわいいからってすぐ手を出しちゃダメだよ?ちゃんと合意の元で進めなさい」
「わかってるって!」
父の小言を振り払うように立ち上がり、このまま部屋を出ていこうとする。久しぶりに会った親と恋バナみたいな事をするのが恥ずかしすぎていたたまれない。
「秘書室に連絡入れておくから、ゆっくり社内を案内してもらいなさい」
そんな言葉を背中に受け、社長室を後にした。
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