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――遡る事、数十分前
「以上が本日のスケジュールになります」
「わかりました。今日もよろしくね、つかさくん」
優しく微笑む社長に同じく微笑みで返し、一旦会話が途切れると開いていたタブレットの電源を落としながらなんの気もなしに視線を窓の外に向ける。
週の始まりである月曜の朝。
多くのサラリーマンが憂鬱な顔を伴い通勤にもまれるこの時間帯、社長随行秘書である僕、橘つかさの仕事は既に始まっていた。
運転手の木村さんと共に社長の御自宅まで迎えにあがり、後部座席に座る社長の隣で会社に着くまでのわずかな時間を使って本日のスケジュールの打ち合わせ。――なのだが、僕にとってこの時間は社長と過ごす穏やかで大切な時間だった。
そんな時間を密かに満喫しつつ、いつもならこのまま仕事の話になる所が、どうやら今日は少し違う様子。
「あぁ、そうだ、実は昨夜息子が帰国してね」
「息子さん…確か、楓真さん、でしたか」
「そうそう、楓真くん。10歳の頃に海外留学へ行って以来一度も帰ってきて無かったから私も12年ぶりに会ったんだけどね、それはもう大きくなっててビックリしたぁ」
身長抜かれちゃったな、と感慨深そうに語る社長こと御門楓珠さんは御歳41歳。誰もが見惚れる整った顔立ちと紳士的な振る舞いはもちろん、ひと目でオーダーメイドだとわかるスーツや一点物の腕時計が彼の高貴さを更に引き立て、その場にいるだけで放たれる圧倒的な存在感は彼に着いて行けば間違いないと思わせてくれる、完璧な人。
そして、僕が唯一安心できるα――
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