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「そうだつかさくん、午前中は特に急ぎの案件は無かったよね?」
「そう…ですね、問題ないかと」
「よかった、実はさっき伝え忘れてたんだけれど、今日から息子もウチで働くから後で社内を案内してあげて。しばらくは私の下につかせて学ばせるつもり」
「――わかりました」
急なことに多少驚きつつも、すぐさま脳内でスケジュールを組み込む。
楓珠さんの実の息子さん…間違いなくαなんだろう……念の為、追加で抑制剤を――
会う事になるのは早くとも夜だと思っていたものだから、心の準備が追いついていなかった。
「朝も私たちと一緒に行こうって誘ったんだけどね、色々見ながら自分で運転したいって先に出てっちゃって…もう着いてる頃じゃ――」
「父さん」
社内では到底聞き慣れない呼称が聞こえたかと思えば、カツカツとこちらに近づいてくる革靴の規則正しい足音が異常なほど大きくエレベーターホールに鳴り響く。
「あ、噂をすれば。楓真くん」
楓珠さんの視線を追って後ろを振り返れば、
何かを発見したかのように目を大きく見開いた見知らぬイケメンと視線がぶつかり合う。
推定190はあるだろうすらっと伸びた高身長にフィットしたダークスーツを綺麗に着こなし、柔らかそうな黒髪をお洒落に撫で付け整った顔を引き立たせるその人は、楓珠さんと同様ピラミッドの頂点αという威厳と風格に満ち溢れている。
突然現れた謎の美男子に誰もが目を奪われ足を止める状況で、僕も彼から目が離せなかった。
一瞬、本当に一瞬、何かがザワりと揺れ動いた気がした――。
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