1-1 出会い

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「父さん、俺、つかささんと結婚する」 「あのね、楓真くん。そういう事には順序ってものが――とにかく、一旦社長室行くよ」      瞬時に周りの状況を確認した楓珠さんは、やれやれとため息を吐きエレベーターを呼ぶべくボタンを押そうとする。そんな社長の動きに秘書としていち早く反応し手を伸ばそうとするが、腰の腕に動きを阻まれた。     「あ、あの、手…離していただきたいのですが」 「ん?」      頭一個分ほど上にある小さな顔に視線を向けつつ声をかけると予想以上に至近距離で目が合い咄嗟に逸らしてしまう。  さっきから心臓がバクバク鳴って落ち着かない。フェロモンを感じる事はできないが、この人独自の匂いなのか、とてもいい匂いがする。  だけどそれ以上に、αとの接触が――怖い。    そんな僕の状態を察知してくれたのか、つかさくん、と呼ぶ優しい声。     「こっちおいで」      ちょいちょいと手招きしながら微笑みかけてくれる慣れた存在に安堵の息が漏れていたことに自分では気づかず、そんな僕をじっと見つめる楓真さんの視線にも気づかないほど、全く余裕がなかった。  やってきたエレベーターに乗り込む楓珠さんのすぐ後を追い、ボタン前をキープする。    続いて乗ってきた楓真さんがチラリと僕を見るが、さりげなく楓珠さんが間に割り込み視線をさえぎってくださった。  3人乗り込んだエレベーターは定員まで全然余裕があるもののこの空間に入り込もうなど思う社員は居るはずもなく、そっと閉めるボタンを押すと静かに上昇を始めた。    
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