1-1 出会い

9/13
前へ
/46ページ
次へ
 沈黙が、痛い。      社長室は15階にあり、到着まで1分は要する。その間誰も口を開かず、ウィーンというモータ音だけが狭い空間に響いた。  早くつけ、早くつけ、と強く念じつつ階数表示だけを一点見つめる僕の背中に突き刺さる視線。      13――14――      結局、最後まで言葉をかけられることなく目的階へ到着したことを告げるチーンという音ともに扉は開き、閉ざされた空間の重い空気が外へ流出した。     「つかさくん、また呼ぶから一旦秘書室待機で仕事してて」 「わかりました」 「楓真くんは私と一緒に来なさい」 「……はい」      楓珠さんの言葉に不満いっぱいの声で返事をする楓真さんの切り替えは早く、またねつかささんと微笑みを向けられ、咄嗟に会釈で返す。  奥の社長室へ消えていく2人を見送り、やっと1人になれた瞬間、詰めていた息を吐き出すように大きなため息がフロアにむなしく響いた。        *****       「おはようございます」      社長室と同じフロアに位置する秘書室は、随行秘書2名とサポート秘書2名の合計4名が配属された部署だ。挨拶と共に部屋へ入ると、待ってましたと言わんばかりに後輩である花野井(はなのい)千佳(ちか)くんが駆け寄ってきては腕にまとわりついてくる。     「せんぱぁい聞きましたよ!?社長と社長の息子さん両手に花で修羅場だったって!」 「おはよう花野井くん、そんな事ないよ」      おはようございまぁすと元気よく挨拶を返す彼は身長も容姿もかわいい愛されキャラ。金持ちイケメンと付き合って玉の輿に乗りたいと声を大に主張する彼のイケメンレーダーは今回も例外なく反応していた。    
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

103人が本棚に入れています
本棚に追加