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今日も、昼休みになってしまった。
僕はいつもの公園の、いつものベンチに腰掛ける。
一頻りぼんやりした後、ランチバッグに手を伸ばす。
取り出したのは、ラップに包まった【おにぎり】が三つ。
最初の一つにかじりつくと、塩昆布の歯応えと程良い塩味が口中に広がった。
おいしい
早々に食べ終え、二つ目を手に取る。
口に入れた途端、焼きタラコの風味が鼻を抜ける。
プチプチとした食感が、また格別。
おいしい
いよいよ、最後の一つ。
さて、具材は何だろう?
僕は躊躇した後、思い切って口に入れてみた。
何も……入っていない……
……そりゃそうか
何も入れてないんだから。
三つ目の【おにぎり】はサプライズ──
何が入っているかは、食べてからのお楽しみ──
君のいつもの口癖だ。
ピクルス、ミートボール、フライドポテト……
食べるたびに、驚かされたなあ。
そんな僕を見て、君はいつも笑い転げてたっけ。
でも……そのサプライズも、今は無い。
そう
君が、お星サマになったあの日から……
でも、今でも毎日【おにぎり】は作ってるよ。
君との思い出を忘れたくないから。
これで終わりだなんて、思いたくないから。
だから、必ず三つ作ってるよ。
君が、毎朝してくれていたように。
ただ……サプライズだけはできないや。
自分で作るから、中身が分かっちゃうもんね。
だから、今だに三つ目は何も入れられないんだ。
君は、すごい奥さんだったんだな。
毎日毎日、いろんな具材を思いついて。
君は、最高の奥さんだったんだな。
人のために
僕のために、あんなに頑張ってくれて。
かなわないよ。
君には。
寂しいよ。
寂しい……
「……しょっぱい!?」
もうひと口かじった僕は、眉をひそめる。
【おにぎり】に目を落とすと、湿ったように光っていた。
頬をつたう涙が、落ちちゃったみたい。
何も入っていない【おにぎり】が、その時不思議な味がした。
しょっぱいけど、ほんのり甘く……そして、切ない。
「これも、君のサプライズかい?」
僕はそう呟いて、また天を見上げた。
雲一つ無い青空が、どこまでも、どこまでも続いている。
「このサプライズ……僕は……苦手だな……」
囁く僕の耳元で、そよ風が笑うように音をたてた。
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