04

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どうせ魔法使いの盗人が現れたとか魔物退治とかそんなのだろうと、アリスはうんざりするような顔をしたが、ヨハンナは続けてと答えた。 ミハイルはそんな二人に向かって内容を話す。 どうやら王都では、最近魔力を持った人間を狙った通り魔事件が多発しているらしい。 ミハイルはその犯人を捕まえるようにと上層部から依頼され、ちょうど手の空いたアリスとヨハンナにその案件を頼もうとしていた。 だがアリスは、やっぱりと言いたそうな顔で返事をする。 「ほらやっぱ仕事じゃん。なにが世間で話題になってるだよ。通り魔なんかよりもアタシは吟遊詩人のほうが気になるんだけど」 「まあまあ、アリス。話くらい聞こうじゃないですか」 そんなアリスを宥め、ヨハンナは詳しいことを話してほしいとミハイルに言った。 ミハイルは呆れながらも二人に説明を始めた。 数人の目撃者の話によると、どうやらその通り魔は集団で襲いかかるようで、魔法などは一切使わないらしい。 魔法使いならまだしも、どうして魔力を持った者を襲うのかはわかってはおらず、魔法協会としては早く対応をしてもらいたいようだ。 「なんでそんなザコにアタシらが出張っていかないといけないんだよ。魔法を使わない連中なら国の奴らにやらせればいいじゃん」 「アリスの言う通りですね。わざわざ魔法協会が動くほどの案件だとは思えませんけど」 ミハイルは、不可解そうにしている彼女たちに言い返した。 なんでもすでに調査にしている者の話によると、その通り魔の集団は、魔法の力を持つ武具を使用して犯行に及んでいるようだ。 そのため魔法協会としては動かざる得ないらしい。 「犯人が狙う人間の特徴は? 魔力を持っている以外になにか共通していることないんですか?」 「うげ~ヨハンナがやる気になっちゃってる。はぁ~あ、こうなるとアタシもいかないといけなくなるじゃん。吟遊詩人の歌、楽しみにしてたのにぃ」 トホホといった顔でガクッと肩を落とすアリス。 彼女はなんだかんだいってもヨハンナが動くとなると、嫌々ながらも仕事をする。 命令違反をするとはいえヨハンナは性格的には優等生だ。 魔法やそれに関わる犯罪をするような輩を彼女は許さない。 一方でアリスのほうも相棒だけに仕事をさせることはなく、なんだかんだで二人で仕事にあたる。 だがミハエルでなければ彼女たちの態度に苛立ってしまい、とても話にならないため、彼が二人のことを任されているというのが現状だ(ミハエルもストレスを感じているが)。 「被害者に共通しているのは、魔力を持っている以外でいうと貴族とかそれなりの身分の者というところか」 「ケッ、単なるやっかみじゃん。金も魔力もない連中が自棄になってる事件ってことでしょ。くだらない」 「それでも死者が出ているのだから動かないわけにはいかないだろう。では頼んだぞ」 そう言ったミハイルは、犯人の特徴や人数の書かれた羊皮紙をヨハンナに渡す。 羊皮紙を受け取ったヨハンナは、アリスと共に今度こそミハイルの部屋から出ていった。 それから彼女たちは魔法協会の本拠地アンシャジームを出て、王都内を歩き出していた。 不機嫌そうに隣を歩いているアリスに、ヨハンナは声をかける。 「通り魔が出るのは夜みたいですから、それまで時間はあります。その前に吟遊詩人の歌を聴きに行きますか?」 幸いなことに通り魔が現れる夜までは時間があり、ヨハンナはそれまでに吟遊詩人を観に行こうと提案した。 相棒の言葉にアリスは一気に機嫌が直り、彼女の手を取って石畳の道を駆け出し始める。 「さすがヨハンナ! 話がわかるね! じゃあ行こう、早く行こう! 話によるといつも広場のほうでやってるみたいだよ!」 「そんなに慌てなくてもいいじゃないですか。まったくアリスはせっかちなんだから」 「だって早く行かないといい場所取られちゃうかもじゃん。魔法を使えば一瞬で行けるけど、個人的な理由で魔法を使うと後でミハイルがうるさいし、走るなら急がなきゃ!」 まるで子供のようにはしゃぎながら走るアリスに引っ張られ、ヨハンナはため息を吐きながら彼女についていった。 口では仕方なく付き合っているといった態度のヨハンナだが、彼女もアリスとの時間はかけがえのないものである。 それにヨハンナの中では、保守的な魔法協会の中でも自分とアリス二人で世界を守っているという自負もあった。 よくアリスが口にしていること――。 たとえ世界が敵に回ったとしても、自分たち二人ならば負けはしないという言葉は、ヨハンナも思っていることだ。 二人ならばどんな困難も乗り越え、必ず解決できる。 神はそのために自分たちを出会わせたのだと、ヨハンナはそう思うロマンティックな面があった。 「話題の吟遊詩人って、一体どんな歌を聴かせてくれるんだろうね」 「少なくともワタシたちよりも凄い魔法使いは出てこないでしょう」 「そりゃそうだ!」 強い陽射しを浴びながら、アリスとヨハンナは笑顔で街中を走り続けた。
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