06

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――ヨハンナと別れたアリスは広場にいた。 中央にある噴水からは絶え間なく水が溢れ、夜になってもその動きは続いている。 そこでアリスは、昼間に観た吟遊詩人の姿を思い出しながら寝っ転がっていた。 ウロウロしているよりも相手に見つけてもらおうというのが彼女の作戦だったが、なんてことはないただの無精だ。 横になったアリスがあくびを掻いていると、彼女の耳に足音が聞こえてくる。 それはまるで四方から囲むように聞こえ、アリスはムクッと体を起こした。 「思ったよりも早くて助かったよ。もう少しで寝ちゃうところだったからね~」 体を起こした彼女の目に入ったものは四人の男だった。 中肉中背に薄い顔。 長くも短くもない黒髪。 わかりやすい特徴もない、明日にでも忘れてしまいそうな印象の薄い男たち。 こんなのが通り魔かと、アリスは首をひねりながら立ち上がり、体をほぐし始める。 「なんだ、あんたらいかにも雑魚っぽいけど、面白いもん持っているじゃん」 だが通り魔の四人の手にしている剣を見て、アリスの口角が上がる。 それは彼らが持っていた剣が、凄まじく禍々しい魔力を放っていたからだった。 アリスはその四本の剣を知っていた。 あれは以前にヨハンナが話していた、黙示禄の四騎士が持っていたという魔剣。 魔剣モルス、魔剣プレイグペスト、魔剣フェイムス、魔剣ベルルムと、それぞれ「死」「疫病」「飢餓」「戦争」の意味を持つ武器だ。 見るからに弱そうな男たちが、どうしてこんな神話に出てくるようなものを持っているのか? アリスにはわからなかったが、しかしそんな伝説の武器といわれる魔剣を目にした彼女は実に嬉しそうにしている。 「うんうん。なるほど、なるほどぉ。やっぱ見た目で判断しちゃダメだよね~。魔法協会の総本山アンシャジームがある王都で通り魔をやるような連中が、ただの雑魚なはずないもん」 四人の男は、にやけているアリスに向かって、魔剣の刃を向けて襲いかかってきた。 囲むように進んでいたのをそのまま、四方から連携の取れた動きで彼女を仕留めようと向かってくる。 そんな敵に対し、アリスは両手を広げて魔法を放つ。 「さて、まずは小手調べ。こんなもんで終わらないでよ!」 アリスは四人の男に向かってそれぞれ炎や水と風の刃、そして大地から尖った岩壁で攻撃した。 少しの間もなく同時に四大元素の魔法を放てるのは、魔法協会でも彼女のみだ。 高位の魔法使いでも、同時に放てるのはせいぜい二つの属性まで。 この攻撃だけで敵は戦意を喪失しても当然だったのだが――。 「ありゃりゃ、そんな簡単に打ち消しちゃうんだね~」 四人の男たちは魔剣を振り、向かってきていた四大元素の魔法を切り裂いて突っ込んでくる。 「さすがは魔剣ってヤツ? でも面白くなってきた。やっぱ戦うのってこうでなきゃねッ!」 それでもアリスは嬉しそうに、いやさらに笑みを深くしてその場から飛び上がって四人の男の攻撃を躱す。 浮遊魔法で飛び上がり、見上げてくる男たちを見下ろしながら、両腕を組んだまま空中でクルクルと回っていた。 魔法を打ち消す魔剣は魔法使いにとって天敵だ。 しかもそれが四本もある。 どうあがいてもアリスの劣勢は覆るはずがない。 しかし、彼女は笑う。 自分の不利を楽しむかのように宙に浮き、敵を見下ろしながら次第に地面へと降りていった。 「さあ来なよ。伝説の魔剣がどんなもんかアタシに教えて」 手をクイクイと招くように動かし、挑発するような仕草で敵にそう言ったアリス。 四人の男は怒るでもなく、ただ淡々と刃を向けて四方に散りながら再び彼女を囲むように斬りかかった。 だが刃がアリスに当たることはなかった。 彼女はまるで踊るように剣を避け、四人の男たちをあしらうように跳ねている。 「あれ~当たらないね。せっかくの魔剣も当たらなきゃ意味ないのに、あんたら全然ダメじゃない?」 四方からの向かってくる斬撃などないかのように、アリスは四人の男に声をかけていた。 これには淡々としていた敵らも焦ったのか、一度彼女から距離を取って仕切り直そうとする。 「もう終わり? なら今度はこっちから行くね。あと次からは避けないであげるから、思う存分魔剣を振るといいよ」 アリスはそういうと、ゆっくりと男たちとの距離を詰める。 そして彼女は、動き出した男二人を魔力の纏った足で蹴り飛ばした。 その蹴りで顔面を打ち抜かれた二人は、広場にあった噴水へと吹き飛び、そのまま新しいオブジェの一部となっていた。 それはまるで道端にあった小石でも蹴り飛ばすかのような気軽さで、アリスにはまったく気負っている様子はなく、残った二人の男は表情こそ変わらないが、その身を震わせていた。 「ば、化け物……」 「恐れるな。たとえ魔法協会で最強といわれるアリス·セイクリッドラインズだといえど、一撃でも魔剣を喰らえばただでは済まん」 残った二人の男は、それぞれ近づいてきたアリスへと斬りかかった。 先ほどよりも魔剣の禍々しい光が増し、その剣速も上がっている。 これは避けれまいといわんばかりの同時攻撃だった。 「最強か。いい響きだね。でもね、残念なことに魔法協会で一番強いのはアタシじゃないんだよ」 アリスがそう言葉を発した瞬間、広場に金属が砕ける音が響き渡った。 なんと彼女は向かってきた魔剣に自身の魔力をそのままぶつけ、魔剣の刃を砕いだのだ。 こうなるともう男たちからは戦意が失われ、慌ててその場から去ろうと逃げ出していく。 だが当然アリスが彼らを逃がすはずなく、彼女は一人を手のひらから光の縄を放って拘束し、もう一人のほうへと浮遊魔法で飛びかかる。 「よく覚えておくといいよ。魔法協会の最強は……」 男は怯えながらも飛んできたアリスに折れた折れた魔剣を振り上げたが、それが届くことはなかった。 彼はアリスの頭突きを喰らって石畳の地面にめり込り、そのまま意識を失った。 「ヨハンナ·ウィンクルムレインだよ。アタシに唯一勝ったあの子が、魔法協会で最強なんだ」
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