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08
――アリスは王都の広場から移動していた。
通り魔の男たち四人を返り討ちにし、それぞれ持っていた四本の魔剣と共に、広場に拘束して置いてきている。
当然、誰かが魔剣を持っていってしまう可能性もあるので、魔法で結界を張って近づけないようにしていた。
「さっさと見つけて昼間の話を続けなきゃね~」
アリスが探しているのは、もちろん相棒のヨハンナだ。
彼女は通り魔の集団が自分を狙ってきたので、ヨハンナのほうはさぞ暇をしてウロウロしているだろうと、急いで彼女を探していた。
浮遊魔法で夜の空を飛びながら、灯りが付いている街を見下ろして進んでいる。
「あーいたいた。なんだよありゃ、道端で寝ちゃってるの? もう、意外とだらしないんだから、ヨハンナは――ッ!?」
早く帰って吟遊詩人の話をしようと胸を躍らせていたアリスだったが、探しだした相棒の姿を見て、その緩んでいた顔が激しく歪んだ。
それはヨハンナが全身から血を流し、ぐったりと倒れていたからだった。
アリスは、相棒の名を叫びながら慌てて彼女の傍にいこうと浮遊魔法を解き、地面に着地した。
しかし駆け寄る前に、背後から禍々しい魔力を感じて足を止める。
それからアリスは振り向きながらバックステップしようとしたが、振り返ったときに目に入った白髪の大男によって道を遮られた。
「もう一人いたのか」
「こいつ速いッ!?」
そして次の瞬間には、アリスは自分の体よりも大きな剣に吹き飛ばされ、路地裏の壁に叩きつけられてしまった。
レンガの壁がアリスのぶつかった衝撃で破壊され、彼女は赤茶色の瓦礫に埋もれる。
「今度のはずいぶんと弱かったな。いや、さっきの小娘が特別だっただけだか」
「そうだよ、ヨハンナは特別だ」
だがアリスはすぐに瓦礫の中から体を起こし、浮遊魔法で白髪の大男の前に現れる。
両腕を組んでふてぶてしい態度で大男を睨み、そんなもんかとでも言いたそうな表情で敵の姿を見据えていた。
白髪の大男は「ほう」と言いながら漆黒の大剣を振り上げる。
だがアリスは、それを右手で受け止めた。
「魔力纏い……さっきの小娘と同じタイプか」
「いいから死ね」
アリスが無感情に言い放った後、白髪の大男の全身が炎で覆われた。
いや、それだけではない。
気が付けば路地裏全体が轟々と燃え、辺りは火の海となっていた。
白髪は慌ててアリスから距離を取り、大剣を振って体の火を消した。
「くッ!? お前、街まで燃やすつもりか!?」
「うっさい、死ね」
金髪碧眼の少女が同じ言葉が白髪の大男の耳に入ったとき、気がつくと彼は水面に浸かっていた。
顔まで迫っている水に流され、周囲の建物に叩きつけられながら身動きができなくなる。
白髪の大男が大剣を壁に突き刺し、水の流れに抵抗すると次の瞬間には水が消えていた。
すると突然吹きつけてきた突風によって、全身が切り刻まれる。
大男は大剣で風の刃を振り払いながら、これは一体どういうことだと驚愕していると、地面がまるで生き物のように割れて土と石が混じった塊に体を押さえつけられた。
「四元地獄……もうお前は死ぬまで逃げられない」
「この小娘!? 化け物かッ!?」
「デケー声出してんじゃねぇよ。さっさと死ね」
焦る白髪の大男にアリスは同じ言葉を繰り返す。
しかし、大男の持つ漆黒の大剣からどこか悲しさを感じさせる音が鳴り始めると、男を捕らえていた土の塊が消えていく。
一瞬だけ表情が歪んだアリスだったが、すぐに手を翳して再び魔法を放とうとした。
だが、どういうわけか。
アリスの手のひらに魔力が帯びることはなかった。
不可解そうに自分の手を見つめる彼女に、白髪の大男は言う。
「魔剣アポカリプシスは対象者の魔法を打ち消す。たとえお前がどんな強力な魔法を使えようが、この剣の前では無力だ」
「やっぱそいつも魔剣か。次から次へとまあよくそろえたね~。どっかで大安売りでもしたのかよ」
「今その軽口を叩けなくしてやる」
白髪の大男の反撃が始まる。
左足が義足とは思えないほど素早い動きで剣を振り、アリスに漆黒の刃を突き立ててくる。
魔法を封じられたアリスはもはや逃げることしかできず、防戦一方となった。
いくら魔法協会で最強といわれようとも、こうなれば彼女もそこらにいる十代の娘と変わらない。
もはや勝ち目などないと思われたが――。
「うん。納得できたよ、こりゃヨハンナが手こずるわけだ」
「それは召喚士娘の名か? 手こずるもなにも、そいつはもう死んでいるぞ」
「バカが。ヨハンナがお前なんかに殺されるかよ」
アリスがそう笑って答えた瞬間――。
白髪の大男の体が吹き飛ばされた。
突然横から飛び出してきた巨大なニワトリによって、体をえぐられるように体当たりをされたのだ。
「ぐはッ!? バカな、幻獣だと!?」
「さっさと決めちゃってよ、ヨハンナ」
アリスの口角がさらに上がり、幻獣コカトリスの背後に向かって声をかける。
そこには黒髪のロングヘアーの少女――ヨハンナ·ウィンクルムレインが立っていた。
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