[プロローグ]

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 土地には独特の匂いがある。  生えている草花、塗装、海や山、人工物の匂い。それらが混ざり合ってその土地ならではの匂いを発するのだ。  古びた駅で深く息を吸い込んで、久来(くき) 孝昌(たかまさ)は腕を伸ばした。 「久しぶりに帰ってきたなぁ」  おおよそ10年ぶりの帰省。22歳で就職してから、怒涛の毎日を過ごしていたこと、就職先が遠方の交通の悪い離島だったことで、久来が故郷に帰ってくることは長らく叶わなかった。  手紙や電話のやり取りはしていたものの、両親に会うのは本当に久方ぶりといったところだ。 「時間はゆっくりあるし、久しぶりにに行くか」
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