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「時が満ちました」
白い羽の天使がそこにいた。
「ヴァルクト」
僕はヴァルクトをみた。
彼は首を横に振った。
「どうして……」
「おまえは綺麗すぎるから悪魔にはなれない。たとえ俺なんかが触れたとしても、そんなのは関係ない」
魂が美しいから、とヴァルクトは言った。
「天界で幸せに暮らすんだ」
「いや……」
僕は彼の腕の中で首を振った。
「いやだ!」
「さぁ、神に愛されし美しい魂よ」
天使が手招きすると、僕の体は見えない力で宙に浮き上がる。
「嫌だ!ヴァルクト!」
ヴァルクトはその場に跪き、目を伏せた。
「こんなのひどい。こんなの……僕はあなたのものなのに……あなただけのものなのに!」
僕は宙に浮いたまま体を捻ってヴァルクトをみた。彼に向かって手を伸ばした。
ヴァルクトは辛そうに目を閉じたまま顔を背向けている。
「あんな下級の悪魔では、おまえをどうすることもできないよ」
僕はあっという間に天使の前に引き寄せられてしまった。
「神がお待ちです。さぁ、準備して、行きましょう」
「なにを……」
天使が僕に向かって手を翳すと、一瞬で強烈な光の渦が巻き起こり、僕の身体を包んだ。
あまりの眩しさと、湧き上がる風に僕は目を閉じる。
身体中が熱くなる。
得体の知れないエネルギーが一瞬にして僕の中に注ぎ込まれるのを感じた。
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