黒っぽい白と白っぽい黒

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ふたりの天使が去ると、ヴァルクトは背中にしまっていた大きな漆黒の翼を広げた。 純黒(じゅんこく)の羽は濡れたように艶光り、ため息が出るほど美しい。 サフィアが見惚れていると、ヴァルクトは片手でサフィアを抱いて、夜の中を翔んだ。 そして黒い霧のカーテンを抜けた所にヴァルクトの棲む世界があった。 ヴァルクトは他には目もくれず、天空に聳え立つ青黒く美しい城を目指して翔び、最上階のテラスに降り立った。 「ヴァルクト、お城に無断で入っちゃまずいんじゃ……」 サフィアが小声でそう言うとヴァルクトは小さく笑った。 「ここは俺の城だから何も問題ない」 「え?だって……さっき……」 エレクサスはヴァルクトのことを「下級の悪魔」だと言って蔑んでいた。 「エレクサスとかいうあの天使こそ身分が低いのだ。だから俺のことを知らなかった。カシアスの方は本物の上級天使だから、俺のに薄々気づいていたようだが」 「本当の身分?」 「俺は悪魔を統べる魔王の末の息子だ。ただし、秘密のな」 「秘密?」 ヴァルクトはサフィアの手を取るとテラスから城の中に入り、外がよく見える大きな窓辺の立派なソファに座らせ、自分も隣に腰掛けた。 「王は俺の母を愛したが、母はそれをよく思わない連中に惨殺された。だから俺が母の二の舞にならぬよう、存在を隠したんだ」 それを聞いてサフィアは瞳を見開いた。 「だから俺のことは誰も知らない。魔界に俺は存在しないことになっているし、俺には一見ただの下級の悪魔にしか見えないよう目くらましの魔術がかけられているんだ。この城も他からは見えない」 「……そうだったんだ。それは寂しいね」 「寂しい?」 サフィアの口から出た言葉にヴァルクトは目を丸くした。 「だって、誰もあなたのことを知らないなんて……お母さんを殺されて、お父さんとも一緒にいられずに育ったんでしょう?」 「寂しい、か。そんなこと考えたこともなかったな」
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