10人が本棚に入れています
本棚に追加
ある夜の発作中、僕は苦しさのあまり目を覚まし、彼を視た。
漆黒の闇の中で、彼は震えるほど美しかった。
「俺のことが視えるのか?」
彼の、地を這うように低く、冷たく、なのにどこか甘やかな美声を聴いた時、背筋が痺れるような感覚に襲われた。
深淵を思わせる漆黒の瞳が驚きに見開かれていた。
「ただの人間に、視えるのか」
その切れ長の目に吸い込まれそうになりながら見惚れていると、大きな発作に襲われた。
僕は自分の胸元を掻きむしり、体を丸めて苦痛に耐えた。
「苦しいのか」
彼はしばらく珍しいものでも眺めるように僕を見ていた。
浅い呼吸のなか、僕は返事もできず、額に大量の脂汗を浮かべながらも彼を見つめ続けた。
「辛いのか」
彼はその長く形のいい指で僕の額に触れた。
驚くほど冷たい指が、病の高熱に苦しむ僕には逆に心地良かった。
彼は自分の指についた僕の汗をまじまじと見つめた。
そして次に、苦しさから滲み出た僕の涙にも触れた。
「熱い……これは何だ?」
僕は咄嗟にその指を掴んだ。
彼の目が驚愕に揺れる。
「俺に……触れることができる人間なんて……」
そこで更なる苦しさに襲われて、僕は血を吐いた。
彼はまた驚いて、僕の口元の血をその指で絡めとる。
最初のコメントを投稿しよう!