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名もなきこと
「はーい! じいちゃーん。まずセーターを着るよー。みんなー、ちょっと待っててねー」
私は、口々にわめき散らす母さんやばあちゃんや弟のとっしーをなだめながら、とりあえずじいちゃんにセーターを着てもらった。
実は私はさっきまで自室のベッドに横たわり、のんびりだらりとしていた。何も考えずにゴロゴロするのっていいよね~、とニヤついていたのだ。
今日は冬至なので、夕方は暗くなるのが早い。時計を見るともう少しで17時になるところ。
一階から母さんとばあちゃんのわめき声が聞こえてきたのは、その時だった。その内とっしーの声まで参加し始めた。恐らくご近所中に響き渡っているであろうボリュームだ。
「良太郎さん、服を着ます! まだお風呂入れないよ!」
「お父さん、こんなところで何やってんのよっ!」
「じいちゃん、母さんとばあちゃんの話を聞こう!」
「うるせー! どけよっ! 俺は風呂に入るんだ! このクソだわけどもが!」
「まあ! 何ですって!?」
うーん。なかなかの修羅場。
狭い居間で、大人4人が立ちあがって、わめき散らしながらにらみあっている。
本当はとっしーは中学生だけど、じいちゃんやばあちゃんより背が高いから、パッと見は大人4人。
しかも、じいちゃんはセーターを半分脱ぎかけという状況だ。ただ事ではない。
よく見ると、ばあちゃんはワナワナと怒りにうちふるえている。
「あ! みーさん、いいところに来た! じいちゃんと遊んでくれない?」
駆けつけた私に気づいた母さんから声をかけられる。
今わかっていることは2つ。
一つは、じいちゃんが現在猛烈に風呂に入りたがっていること。
もう一つは、いつもと違うことを突然言い出したじいちゃんを、3人が全力で止めていること。
とにかく全員落ち着いて欲しい。
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