&夢の中で

1/8
前へ
/8ページ
次へ

&夢の中で

&01 夏の暑い日に、流行り病にかかってしまった涼子は、1人かかりつけ医に向かっていた。 普段なら、涼子の隣には、晃が居てくれた。 ただ、その日に限って、晃も流行り病でうなされていて、出張先のホテルで休んでいた。 涼子は、主治医の言う通り、即入院が決まり、エコバッグにハンカチと財布だけの手荷物で、救急病院へ運ばれた。 そして、同じ日の夜中に、晃もまた救急病院へ運ばれたのだ。 &02 涼子と晃は、学生恋愛で、校内でも有名なおしどりカップルだった。 お互いにテニスクラブに所属して、何度も大会に出場するほどの腕前なのだ。 その頃から、不思議なことが連続的に起きていた。プレー中に晃が捻挫をすると、涼子も捻挫する。 涼子が調理中に、包丁で指を切れば、晃も同じようにカッターで切ってしまうということが、あったのだ。 だが、互いに不思議だと思ったが、それほど気にしていなかった。 &03 大恋愛の末、5年前に結婚した2人だが、この流行り病には、どうにもカラダがいうことを効かない。 そして、涼子は、入院中に不思議な夢を見た。 それは、別の世界で、懸命に生活をしている晃の様子を遠くから、観ているのだ。 壁に掛けられたカレンダーも、2038年となっているし、見た事もない調理器具で、ご飯を食べている晃。 家族は居ないらしく、1人で住むには広すぎる部屋で、パソコンらしきものをいじっていた。 「あんなに大好きな晃が、何故1人なの?私は、どこにいるの?」 何度も叫んだけど、聞こえていない。 そんな夢を数回見た夜に、晃の同僚から連絡が入った。「晃が死亡した!」と言われたのだ。 涼子にとっては、晃とまた一緒に生活出来るという目標があったから、入院も辛くなかったが、突然、大好きな晃が亡くなったというショックには、思考が追いつかず、泣いてばかりいた。 「もう、会えないの?大好きな晃にキスも出来ないの?晃の声も聞けないの?」どんなに投げかけても、誰も答えてくれない。 ただ、あの時見た夢が、涼子の記憶に残っていたので、もしかしたら、あの世界に晃が居るかもしれない。夢の中なら、会えるかも…そんな、期待を抱きながら、自宅に戻った。 晃と暮らした部屋は、涼子1人では広すぎて、悲しくなる時がある。 そんな時は、向こうの世界に晃がいるから、私も頑張るとつぶやいていた。 &04 数ヶ月が過ぎた頃、ポストに1通の手紙が入っていた。 宛名は、涼子 差出人は、晃 消印は…かなり擦れて見えづらいが、2038年3月と書いてあった。 涼子が暮らしている2026年より先の未来からの手紙 いろんなことが頭の中でグルグルと回転しているが、本当に晃からの手紙なら、嬉しいと内容をゆっくり読んでみた。 親愛なる涼子へ 僕は、2026年に出張先で入院して、君との約束も守れないままでいたよ。 仕事ばかりで、涼子の優しさに甘えていた僕は、結婚10周年記念で、思い出の地を2人で旅行して、ゆっくり過ごそうと約束していたんだよ。 海と神社が好きな君の為に、沖縄のとある島へ行きたいと言ってたね。 入院中の僕は、不思議な夢を見たんだよ。 花畑が続く海岸線を涼子とドライブしているんだ。 どこまでも続くたくさんの色で、咲き誇る花たち 気持ち良くドライブしていた時に突風が吹いて、その花がたくさん舞い上がった瞬間、隣に座っていた涼子が居なくなったんだ。 どこを探しても見つからない。 僕は、仕方なく自宅に戻ったが、その自宅は、何故か、見たことがないものばかりの部屋だった。 しかも、カレンダーは、2038 何が起きたのか、全く理解できない。 僕だけ、異世界に迷い込んだのか、持っていた携帯を見ると、日付は、2038年1月11日になってる。 さっき見た花畑も、1月にたくさんの花が咲いているなんてこともおかしい話だ。 しかし、着信履歴には、涼子の名前がある。 メールの履歴にも、ちゃんとあるのだ。 だが、涼子は、僕のそばから消えた。 なんとかして、涼子を見つけ出し、また一緒に生活したいと強く願った。 僕は、その日から、毎日、現実の世界と夢の世界で涼子を探し始めたんだ。 &05 涼子が手紙を読み終えた後、自分も晃に手紙を書きたいと思った。 しかし、宛先の住所も無く、どこに送っていいのかもわからないでいた。 ある日満月の夜に、夢の中で、何故か、晃に会うことが出来たのだ。 涼子は、嬉しくて泣きじゃくり、晃を抱きしめて離さないでいた。 晃は、「夢が覚めるまでの間に、伝えたいことがあるから、聞いてほしい」と、涼子に言った。 「僕は、2038年という未来に連れて行かれて、ちゃんと生活をしているよ。涼子のことを忘れたことなんてない。守ってあげられなくて、ごめん。現実の世界で、涼子に触れられないのは、僕にとっても悲しいことだ。ただ、今、夢の中で、涼子に会えて、キスも出来る幸せは、離したくない程、愛おしいよ。涼子、愛してるよ。」 夢の中の2人は、互いに触れ合い、何度も激しく唇を重ねて、愛を確かめ合うことの高鳴りを抑えられなかった。 涼子も、「この夢だけは、覚めないで!」と、つぶやいた。 「晃、愛してる」と、涼子が言うと、現実の世界から地響きのように、音が鳴った。 我に帰った涼子は、さっき見た夢のことを、思い出していた。 そして、晃も、涼子の温もりを確かめながら、タバコをくわえて、呆然としていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加