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(―鈴なんかが子爵夫人なんて。そんな事許してなるもんですか)
葉菜子は思わずハンドバックの鎖を強く握り締めた。
その時ロビーの前方から濃紺色の軍帽に同色の立襟の軍服を纏った長身体躯の壮年の軍人が現れた。周りにいた宿泊客が話をやめ、さっと道を開ける。
「-これはこれは一枝伯爵。お早いお着きですな」
「鳥飼総監閣下。お会いできて光栄です。本日はどうぞよろしく」
「こちらこそ。ところで、そちらが我が愚息のお相手ですかな?」
「あ、そ、その…」
向けられた視線に一瞬浩輔がたじろいでいると、葉菜子が満面の笑みを浮かべて前に進み出た。
「―鳥飼総監!この度はお会いできて光栄です!私が娘の…」
葉菜子が言いかけた時、背後から「父上!」と呼ぶ声が聞こえ、鳥飼総監の注意はそちらに向けられた。
「…申し訳ありません。遅くなりました」
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