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「…鳥飼総監閣下。お初にお目にかかります。一枝葉菜子と申します」
唖然とする葉菜子をよそに、鳥飼子爵の傍らにいる唐紅の振袖を着た女性は背筋を伸ばしてそう挨拶を述べた。
「―なっ…!」
「…聞けばこちらに来る途中で両親とはぐれていたのをお連れしたんですよ」
葉菜子が口を挟む暇を与えるまもなく、誠が横から助け舟を出した。
「ほお、そうだったか。ひとまず間に合って何よりだ。葉菜子さんとやら、さぞ疲れただろう。階上で珈琲でも飲んで行きなさい。―君、2人を先に上階に案内してくれ給え」
鳥飼総督は一枝夫妻に呆れとも取れるような一瞥をくれると、葉菜子を素通りして近くにいたボーイを呼ぶと、自らは一枝夫妻に向き直った。
「…一体どういう事かね」
鳥飼総監の低い声にそれまで羞恥と屈辱に顔を赤らめていた一枝夫妻は一瞬にして蒼白になった。
一方で葉菜子は、鈴に出し抜かれた怒りで全身を戦慄かせていた。
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