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十
茶碗継が終わった夫婦茶碗を、凛は嬉しそうに手に取った。
「まぁ、すごいわ。継いだ跡が金でこんなに美しくなるなんて」
「それが焼継師の仕事だからな」
柊三郎も嬉しそうな凜を見て、柔らかく微笑んだ。
咸吉が雇った浪人風の男に連れ去られる前、凜は棚に置いてあった夫婦茶碗を懐深くに隠し入れた。
柊三郎が気づく目安になればと思ったからだった。咸吉に突き飛ばされ、床に打ち付けられた衝撃で茶碗割れてしまったが、茶碗が凛の代わりに衝撃を受けてくれたのではないかと思った。
柊三郎は茶碗の欠片を接着して焼継ぎ、夫婦茶碗を再生させた。
「世の中に一つだけの、私達の茶碗ですね」
「これから先も私が共にありたいのは、凜だけぞ」
柊三郎の言葉に、嬉しそうに頬を染める。
殴られた痕は、残っていない。
凛の心の傷も拭ってやれたらいいのに、と柊三郎は思う。
そんな柊三郎の顔を凛が覗き込んで言った。
「柊三郎様、これからも仲良う、この夫婦茶碗でご飯を食べましょうね」
自分の妻が愛おしくて堪らずに柊三郎は、凛を抱きしめて答えた。
「ああ。一生な」
茶棚に金継ぎした夫婦茶碗が並んでいる。
二人には、江戸随一の夫婦茶碗に思えた。
了
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