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 茶碗継が終わった夫婦茶碗を、凛は嬉しそうに手に取った。 「まぁ、すごいわ。継いだ跡が金でこんなに美しくなるなんて」 「それが焼継師の仕事だからな」  柊三郎も嬉しそうな凜を見て、柔らかく微笑んだ。  咸吉が雇った浪人風の男に連れ去られる前、凜は棚に置いてあった夫婦茶碗を懐深くに隠し入れた。  柊三郎が気づく目安になればと思ったからだった。咸吉に突き飛ばされ、床に打ち付けられた衝撃で茶碗割れてしまったが、茶碗が凛の代わりに衝撃を受けてくれたのではないかと思った。  柊三郎は茶碗の欠片を接着して焼継ぎ、夫婦茶碗を再生させた。 「世の中に一つだけの、私達の茶碗ですね」 「これから先も私が共にありたいのは、凜だけぞ」  柊三郎の言葉に、嬉しそうに頬を染める。  殴られた痕は、残っていない。  凛の心の傷も拭ってやれたらいいのに、と柊三郎は思う。  そんな柊三郎の顔を凛が覗き込んで言った。 「柊三郎様、これからも仲良う、この夫婦茶碗でご飯を食べましょうね」  自分の妻が愛おしくて堪らずに柊三郎は、凛を抱きしめて答えた。 「ああ。一生な」    茶棚に金継ぎした夫婦茶碗が並んでいる。  二人には、江戸随一の夫婦茶碗に思えた。   了
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