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四
凛が嫁いで来た時には青々と茂っていた庭木の葉が色づき、風に吹かれてひらひらと庭に舞い落ちた。
茶碗継ぎに呼ばれて街に出かけている柊三郎を待ちながら、凛は庭を眺めている。
柊三郎から凛に触れる事はなかったが、二人は穏やかな日々を過ごしていた。
「柊さぁん、茶碗継いでおくれよぅ、家の宿六と喧嘩しちまって、投げつけた茶碗をおっかいちゃったんだよ」
大きな声でやって来たのは、林向こうに住む大工頭、八吉の女房のつよだった。
つよの声に、笑いながら凛が出ていく。
「凛ちゃん。柊さんは? 昼飯に間に合うよう、急ぎで頼みたかったんだけどねぇ」
「つよさん、また親方と喧嘩したの?」
「凛ちゃん、聞いておくれよ。あの宿六! 雨だからって、稼ぎもしないで朝から飲んだくれてやがるんだよ。ったく。朝酒なんて、だらしない男だよ。柊さんが真面目で羨ましいよ。アタシがあと十ほど若かったらほっとかなかったんだけどねえ」
「つよさん、たら」
ふざけてシナを作るつよに、凛が微笑む。
「そうだ。林道に見慣れない男が彷徨いていたよ。色白で綺麗な格好をしていたけど、なんだか蛇みたいな男でねぇ、アタシの好みではなかったけれどさ。柊さんが居ないなら、凛ちゃん気をつけるんだよ」
色の白い蛇のような男。
凛の脳裏に、咸吉の姿が浮かぶ。
襲われた夜から、半年。
漸く悪夢を忘れられたのに。
次第に喉が詰まり、息ができなくなって行く。
つよは凛の肩を掴んだ。
「ちょっと、凛ちゃん。大丈夫かい? 凛ちゃん」
つよの声が次第に遠くなって行く。
「柊さんっ、柊さんっ、凛ちゃんが!!!」
ちょうど茶碗継から帰って来た柊三郎が、つよの声に駆けつけた。
「どうした、凛。しっかりしろ」
柊三郎は凛を軽々と抱き上げる。
柊三郎の温かさと体の硬さを感じて、凛は幸せだ、と思った。
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