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五
つよから事の次第を聞いた柊三郎は、眉間に皺を寄せた。
新蔵から凛に起こったことはある程度聞いている。新蔵から凛を嫁に、と言われた時は驚いた。陶磁器を取り扱う凛の家は大きな商家で、一介の焼き継ぎ屋である自分には勿体ない話しだ。
凛を守りたいと言う新蔵の気持ちを受けて、凛を嫁にしたが、今でもこれで良かったのかと思う気持ちは拭えない。凛の器量や人柄であれば、もっと違った幸せがあったのではないかと思う。
凛より十ほど年上で、困窮はしていないが裕福でもない暮らしをし、愛想のない自分に対しての引け目を感じていた。
柊三郎の胸には、凜を愛おしいと思う気持ちと、凛の幸せを願い、自分から自由にさせてやりたい気持ちがいつでもせめぎ合っている。柊三郎自身、どうしたらいいのか答えは未だ出ていない。
布団に寝かせた凛が気づいて目を開ける。心配そうに傍らに座している柊三郎に微笑んだ。
「ご心配をおかけして申し訳ございません」
「無理はするな」
そう声をかけて凛の言葉を待ったが、理由も不安も語られる事はなかった。
凛が話すまで待とうと考えた柊三郎も、凛に深く尋ねることはできなかった。
凛が倒れてからはできるだけ家の作業場で仕事をするようにしていた柊三郎だったが、どうしても断われない贔屓筋からの依頼で、街まで焼継に出ることになった。
半月ほど不審者も見かけない事だし、と凛の勧めもあって、柊三郎は心配しながらも出かけることにした。
帰りに櫛を土産に買って帰ろう。凛の喜ぶ顔を思い浮かべながら柊三郎は家を後にした。
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