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九
ガタンッ、ガタタンッと音がして、破れ寺の扉が乱暴に開いた。
「凛っ! 凛っ!」
扉を蹴破る様に入ってきたのは柊三郎だった。
帯が半解きになり、胸元が開かれ、顔のなぐられた跡が赤く腫れ、グッタリした凛を抱えている咸吉を見た柊三郎は、瞬時に咸吉を殴り飛ばした。
「貴様っ!!!」
殴られた咸吉は、床に転がりながら柊三郎に向かってニヤリとした。
「凛は私のものだ。キズモノとなった凛と共に暮らしていけるのか? 私が凛につけたキズは一生消えぬぞ? 凛は私のものだと言う証だ」
「構わん。そんなもの、オレが消してやる。ただ、お前が凜にしたことは決して許せぬ! その命を以て償え!」
咸吉は柊三郎の言葉を聞くと、懐から短刀を出し、柊三郎に向かって斬りつける。
柊三郎に短刀がかすり、着物の袖に血が滲む。
そこへ、二人の男が駆け込み、咸吉を取り押さえた。
「北町奉行所だ。山之屋 咸吉! 越後屋での賃金横領および越後屋長兵衛への傷害で探していたぞ。勤めていた越後屋で騒動を起こし、やめさせられた腹いせに越後屋長兵衛に斬りつけたそうだな。更に宮川屋柊三郎、凜夫妻への傷害も追加だ」
「ふざけるな、あんなのは傷害じゃない。軽く脅しただけだ」
「信じられるか! この有り様を見ればな」
岡っ引きたちが暴れる咸吉を取り押さえて、破れ寺から連れ出す。
破れ寺の三軒向こう先で浪人風の男たちも取り押さえられていた。
破れ寺に、つよと大工の八吉親方が入ってきた。
凜を訪ねたつよが、大きな桶を背負った浪人が出ていくのを見て八吉に話し、八吉は自分の職人衆を使って浪人の行く先を突き止めた。
つよはまず、凛を探し回っていた柊三郎に、その後、凛の父である新蔵に凛が攫われたようだと告げ、柊三郎を破れ寺に急がせた。
新蔵は旧知の仲である越後屋長兵衛に事の次第を話すと、長兵衛は咸吉が必ず捕まるよう、自ら奉行所へ咸吉の傷害と横領を連絡した。
グッタリした凛の縄を解きながら、柊三郎は凛の名を呼び続けた。
うっすらと目を開け、柊三郎の姿を見た凛が微笑む。殴られた顔が痛むのか、顔をしかめた。
「柊三郎様……」
それでも話そうとする凛の手を握り、優しく抱き締めて言った。
「私達の家に帰ろう。凛、私の妻は生涯、そなただけじゃ」
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