4.一緒に ※

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 ああ、余計なことを言った。口にしても仕方がないのに。  澄んだ黒い瞳が俺を見る。互いの言葉もわからなかったあの頃のように、まっすぐに心を伝えてくる。 「お前の瞳は……おしゃべりだな」 「何て言ってる?」  鼻の奥が詰まって、うまく声が出なかった。 「ごめん、って? サランのことが大好きだ、って言ってる?」 「キフェ……」 「昔うまく言えなかった分も、これからたくさん言うよ」  キフェルの言葉に懐かしい思い出がよぎる。キフェルは、なかなか「好き」の一言が言えなかった。 『す・き。ほら、もう一度言ってごらん、キフェル』 『とぅ・い?』 『ふふ、上手』 『サラン、とぅ・い!』 「……好きだよ、サラン。これからはずっと俺がいる。サランの声を聞いて、サランの側にいる。遅くなってごめん」  ぼろぼろ涙がこぼれる。みっともないと思っても少しも涙が止まらなかった。キフェルが俺を抱きしめたまま、厚い敷布の上に横にする。瞼に、頬に、唇に幾つも口づけが降ってくる。  温かな唇は、自分の欲望を思いのままに吐き出そうとする男たちとは全く違う。自分がそう思うことにひどく心が痛んで、キフェルの厚い胸を押した。 「サラン?」  綺麗なキフェル。優しいキフェル。真っ直ぐなお前に、俺はやっぱりふさわしくないよ。お前の思い出の中の俺だけが、いつまでも綺麗なままなんだ。  キフェルは俺の顎を指で引き寄せたかと思うと、味わうように深く口づけた。熱い舌が自分の舌に絡みついて、柔らかく吸い上げる。大きな手が自分の胸をまさぐって服の間から肌を撫でた。 「ん……ふ……っ」  ゆっくりと触れられる感触に、ぶるりと体が震える。絶え間なく人の手に暴かれてきた体だ。簡単に快感を拾えるはずなのに、ぎごちない手の動きをただ愛しいと思う。  キフェルに触れられた場所にゆっくりと熱が巡り、唇の端から糸のように唾液がこぼれ落ちる。そっと唇を離せば、キフェルの手が止まった。動きを止めた手を自分の口元に運び、手首を吸い上げた。キフェルは頬を赤らめ、小さく息を漏らす。 「サランの瞳だって十分おしゃべりだよ。……サランは綺麗だ。体も、心も」  思わず笑うと、キフェルは体を起こした。服の下からは綺麗に筋肉がついた見事な体が現れる。中心にそそり立つ賜物にも、思わず目を見張った。 「……細身に見えたのに」 「魔術師だって体力勝負だからね。いつも鍛えてるんだ。それより、こんなことされると困るんだけど」  赤い痕のついた手首を、ずいと目の前につきつけられる。キフェルの拗ねた口調がおかしかった。悪戯心を起こしてもう一度手首に口づければ、体がふわりと宙に浮く。えっと思った時には、寝台で横になっていた。  
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