メビウスの輪

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 翌日から元気を取り戻しつつあった玄だったが、それにつけての“がじゅまる”の不調であった。  何とかならない物かと、今まで以上によく観察し、気に掛けてはみるものの、自分でできる事には限界がある。  こんな時に爺ちゃんならどうするかと考えてみれば、そうだ石津さんとこに相談してみようと思い立ったのだ。  自転車の前かごに鉢を載せ、爺ちゃんに車で乗せてもらった道程を、今度は自力で自転車で進んで行く。  駐車場の端に遠慮がちに自転車を停め、“がじゅまる”をかごから大事に降ろして懐に抱えながら、石津植物園の自動ドアを潜る。 「あら、曽倉さんとこのお孫さんやないの? まぁまぁ、お爺ちゃんの事は残念やったねぇ」  石津の奥さんに爺ちゃんの話をされて、途端に悲しみが込み上げてきて、言葉よりも先に涙が出て止まらなくなった。 「あらあら、どないしたん? その“がじゅまる”お爺ちゃんと買って帰った子おやねぇ? それがどないかしたんか? 」  奥さんは、優しく(なだ)めるように、落ち着いた口調で玄に確認する。 「あの…がじゅまる…が…枯れ…枯れて…枯れてしまう…」  何とかかんとか言葉を絞り出した。  奥さんは、皆まで言わずとも様子を見て理解してくれたようだった。 「どれ、おばんちゃんが(いっ)ぺん見たろ。鉢こっち貸してみい」    石津の奥さんは、優しく、そしてどこか力強い口調でそう言ってから、半ば強引に引き剥がすように玄の腕から“がじゅまる”の鉢を受け取り、目の上に高く掲げてみたり、胸の高さまで降ろしてみたりして、鉢の底から上まで一通り見渡した。 「僕、安心したらええよ。この子、まだ枯れてへんわ。  家の中にずっと置いてたやろ? お日さんに当たってへんかったからしんどくはなってるけど、まだ枯れてへん。  帰ったらお日さんに当ててやらなあかんで。  あと、この子、鉢が()いそなって苦しい言うてやるわ。  今は冬場やからいらわれへんけど、春になったら、そやなぁ、五月になったら、一回り大きい鉢に植え替えたり。  ようやらんねやったら、おばちゃん、手伝ったるから、春になったらその子連れて、もう(いっ)ぺんウチにおいでや。  せんどお世話になった上得意のお孫さんやもん。それ位の事はさしてもらいます」 そう言って、帰り際に、 「これはサービスやから」 と言って、鉢に白い粒の肥料を三粒、置いてくれた。
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