メビウスの輪

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 爺ちゃんが原因のモヤモヤは、爺ちゃんがいなくなってしまった今、問題解決の糸口を(つか)めないまま、一月(ひとつき)経っても、三カ月(さんかげつ)経っても、玄の心を覆い続けていた。  ある日の夕飯後、畳の部屋で洗濯物を畳む母親の隣で寝転がっていた時に、ふと思い立って、 「なぁ、お母さん、人って何で死ぬんやろ? 人は死んだらどうなるんやろ? 」 と今迄は具体的に言葉に出来なかった思いを、漸く口にすることができた。  母親は、なかなか答えてはくれず、ただ黙々と洗濯物を畳んでいるように見える。 「キリストって死んでから復活したんやろ? 爺ちゃんは復活せえへんの? 」  母親は、漸く一旦手を止めて、玄の方に顔を向けてから、 「イエス・キリストて人とちゃうやろ? 神さんやから復活したんちゃうのん? よう知らんけど。お爺ちゃんは人やからねぇ」  穏やかな口調の母親の言葉に納得が行かなかったのか、玄はさらに畳みかけるように問答を続ける。 「ほな、僕は? もし僕が死んだらどうなるん? 死んだら、みんなとはもう会われへんようになってまうんやろ? 何かこう、もわあっと、何かもわあっと怖いねん。なあ、お母さん、僕は死んだらどうなんねやろ? 」  自分でも制御する事ができず、玄は捲し立てるように言葉を発する。  そう、たった今解った事。玄は爺ちゃんが死んで、爺ちゃんに会う事が出来なくなって、爺ちゃんと話が出来なくなって、寂しくて悲しかった。  そして、それが怖い事だとも感じていた。 「正直に言うけど、お母さんはあんたが死んだ後どうなんのかは解らへん。  お母さんに解る事は、あんたが今、もし仮に死んだとしたら、その時は、お父さんもお母さんも、お姉ちゃんもみんなが悲しい言う事だけやわ。  反対に言うたら、あんたが生きてると言うことは、それだけでみんなが嬉しい言う事と違うやろか?   そうやなぁ、何かお母さんもだんだん解ってきたわ。生きてると言う事は、嬉しい言う事なんやわ」  目の前にいるのは母親なのに、何故か爺ちゃんと話しているような不思議な気分になっていた。 「だからあんた、あんただけとちゃう、お父さんもお母さんも、お姉ちゃんも、みんな、最後の最後まで、神さんが『もうあきまへん、ホンマにどうしようもない、最後ですわ』て言わはるまで、どんな格好してても生きやなあかんのと違うかなあとお母さんは思うし、多分、お爺ちゃんもそう言わはる気がするんよ」  自分が生きてるだけでみんなが嬉しいと言う事が解って心が少し落ち着いたのもあったが、母親を通じて、爺ちゃんを感じられた事が何より玄の心のモヤモヤを打ち消してくれた。
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