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ずっと母親に内緒にされ、部屋の隅の目立たないところに置かれていた“がじゅまる”は、その日から窓際の華やかな場所に住処を移す事になった。
当然、母親に知れる所となったが、当の母親は意外に事も無げに、
「お爺ちゃんやろ? 」
と笑った。
“がじゅまる”は、「多幸の樹」と呼ばれ幸せを運んで来る反面、その容姿や秘めた生命力の強さから、他の生き物から生命力を吸い取る「絞め殺しの樹」と呼ばれる事もあるらしい。
── “がじゅまる”かて、良い面と悪い面と両方持ってるんや。人間かて良えとこも悪いとこもいろいろあるに決まってる。
そやなかったら、おもろないがな。
爺ちゃんなら、そう言って“がじゅまるに”に頬ずりするのではなかろうか。
同級生の藤枝君は、勉強ではいつも百点ばかり、スポーツも万能。背も高くイケメンで、女子からの人気も高い。
性格は真面目で大人しい方だから、人から嫌われる要素は皆無と言ってもいい。
その上、お父さんは開業医ときているから、将来に不安もないに違いない。
でも、玄は藤枝君の事が嫌いではないのだけれど、何故だかあまり好ましいと思えない。
羨ましい気持ちは勿論あるが、それだけでそんな風に思うのではない。
爺ちゃんに影響され過ぎているのかもしれないが、人間というのは、悪いところがあるから面白い。
というよりも、完璧な人間など、最早人間ではない。
だから寧ろ、最近では藤枝君の事を心配に思う程なのだ。
学校で自分たちに見えている藤枝君は、何でも出来て、何不自由なくて、それこそ神様のような存在だが、きっとそこには我々には見えてこない葛藤や苦しみがあるのではないだろうか。
その事が、人に気付いて貰えない、曝け出すことができないというのもまた、本当に苦しい事なのだろうと、玄は気の毒に思うのだ。
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