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「玄、生きてるかあ? 」
サボテンの一件以来、家にいるときは塞ぎ込んでいた玄の噂を聞きつけて、隣町のアパートで一人暮らししている爺ちゃんが、軽口と共に部屋を覗く。
「生きてるわ! 」
取り敢えずは元気を装ってみるが、爺ちゃんには隠し事はできないし、爺ちゃんと言う人にはその必要が無い。
「玄よ、行きつけの植物園まで行くんやけど、ちょっと付き合うてくれんか? 」
爺ちゃんの行きつけの「植物園」と言うのは、平たく言えば園芸店の事で、お店の名前が「石津植物園」と言うので、爺ちゃんはそう呼んでいるのだ。
小学校の低学年くらいまでは、よく分からずに付いて行ったものだが、ここ最近は、特に用もなく、待っている時間が気不味いので行く事も無くなっていた。
「せやけど、僕、今そんなとこ行ったらあかんのと違うん? 」
「何でいかん? 別にお前が行ったからって石津さんとこの花がみな枯れてまうわけとちゃうやろ? ほいたら別にかまんがな」
爺ちゃんはそう言って事も無げに笑うと、
「ほら、行くぞ。お母さん帰ってきたら、それこそややこしいがな」
と言って、玄の腕を掴むと、半ば無理やりに玄関へ引っ張り出した。
おずおずと軽トラの助手席に玄が乗り込むのとほぼ同じタイミングで、もう爺ちゃんは車を発進させていた。
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