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「それ、暫くの間はお母さんにも、お父さんにも見つからんように、自分の部屋でこっそり世話せぇよ」
爺ちゃんは、帰りの車でもまた紫煙を燻らせ、フロントガラスを真っ直ぐに見つめながら玄に言った。
「えっ? これ、僕が育てるの? 」
「当たり前や」
「けど、僕、この前サボテン枯らしてしもた…」
「それがどういた? お前は、あのサボテンの事、大事に育てたろう? 可愛いがりよったろう? 肝心なんはそこやと爺ちゃんは思うんや。
枯れたいうのんは結果の話や。お前には、植物の世話をする資格がある。そんな事でやめてしもたら、何かよう分からんけんど、物凄いもったいない思うねん」
そう言って爺ちゃんは、煙草を買いに行くと言って、車を家とは反対の駅の方に向けた。
突然の重責に、少し戸惑いもあったが、よくわからないモヤモヤに覆われていた心が、霧が晴れた様にパアっと明るくなるような感情も同時に感じていた。
「ちょっと待っとけよ」
そう言って爺ちゃんは、車を降りて、肩で風を切りながら颯爽と煙草屋へ歩いていき、暫くすると昔よく買ってもらった駄菓子をビニール袋一杯に詰めて車に戻ってきた。
「もう五年生やき、こんなん食べてもお母さんに怒られる事もないやろ」
そう言えば、幼稚園の頃、友達に誘われて五円玉を搔き集めて駄菓子屋へ行った時に、母親からこっ酷く叱られた。
勝手に買い物に行ったこともそうだが、玄の母親はどうやら駄菓子と言う食べ物が好きではなかったようだ。
その事を爺ちゃんに話してみたら、意外に爺ちゃんは、
「お母さんには内緒な」
と言いながら、駄菓子屋へ連れて行ってくれて、納得いくだけ食べさせてくれた。
玄はその事を思い出して、上手く表現できないが、すっぱい気持になった。
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